Twitter300字ss 剣なき世の

 読み書きも算術も人並み以上にできると自信満々だったのに、先生は毎日僕をぺしゃんこにする。あの小柄な体のどこにあれだけの知識が詰まってるんだろう?

 医者になると言ったのは僕自身だけど、たまにはため息をついたっていいよね。


 母様はいつも通りの柔らかい無表情で、愚痴を受け止めてくれる。その左袖がなびかないよう結ぶのは、毎朝の日課だ。繋いだ手は剣だこのせいで彫刻みたいに硬い。

 この手が守った命、こぼれ落ちた後悔の物語を、何度ねだっただろう。


「僕は剣以外のやり方で誰かを助ける。約束する」

「……では、成し遂げなさい」


 僕の選択を母様は肯定してくれた。

 両手が空いていれば母様をぎゅってできるだろ、とは言わないでおく。



(300文字/長編「凱歌」番外編)

(本編⇒https://kakuyomu.jp/works/1177354054883146398

「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「約束」

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