第9話 戦闘機の空

 最近の話だけど、飛行機のシミュレーションゲームをやらせてもらった。速くて強い、ナイフみたいな翼の戦闘機を飛ばしそうとして、俺はあっという間に墜落してしまった。

 ゲームを貸してくれた友人が言うには、戦闘機というのは、あえて安定しにくいよう作られているものらしい。普段乗る飛行機には大方ついている、飛んでいる時の姿勢を崩れにくくするような仕組みが、わざと施されていないのだとか。


「ただでさえ危ないことをするのに、なんでそんなことするんだ?」


 俺が尋ねると、友人はわかってないなとばかりに肩をすくめた。


「コウ。戦闘機ってのはな、いつだって相手を撃てなくちゃならない。安定性なんてのは、そんなヤツには邪魔なんだ。戦いたい時に、すぐに動けなくなる」


 俺は戦う前に墜ちたけれど。愚痴ると、友人はエースパイロットのような顔つきで俺から操縦桿(型のコントローラー)を取り上げるなり、「見てろよ」と、実にきれいに機体を繰ってみせた。

 その動きはまるで鳥のよう…………なんかでは全く無く、どちらかと言えば、餓えた猛獣のようだった。追っかけて追っかけて、敵から逃げて逃げて、ほんの一瞬の隙を狙って、執念深く、命をも焚き尽くして、飛んでいく。優雅なダンスなんてとんでもない。狂気の沙汰でしかなかった。


 ヤガミっていうのは、そういう点では、戦闘機みたいなヤツだったなと思う。格好良いけれど、ただ生きるにはあまりにバランスが悪かった。

 あんなに強いなら、もっと上手く飛ぶことができただろう、というのは、さっさと墜ちて地上から見上げているだけの、ド下手くそのぼやきであって、現実はきっともっと無情だったのだろう。性根からしてああいう風に作られていたのなら、アイツの墜落は必然だった。


 崩壊は唐突にやってくる。

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