第6話「終焉の序曲(2) - 蝕まれたもの」 “Overture of the end chapter 2 - Falling kingdom”

人々の心の支えたるべき荘厳な礼拝堂も、近頃は足を運ぶ者も少ない。

「屍者に隣国が蹂躙され、滅びた」という事実は国中に暗い影を落とした。

信仰は、命を保証しない。

祭壇の前には、一人の女がうずくまり、無心に神への祈りを捧げている。

その様子を、背筋を正し長椅子に腰掛けた聖騎士が見守っている。

「王も王妃も、姿をお見せにならない。体調を崩されているそうだが…」

女性は答えない。

その肩は小刻みに震え、何かに怯えるように縮こまっている。

「残された時間は、思っているよりも少ない。何か、手立てを見つけないと…」

「私、怖いんです」

僧侶は、震える声で答えた。

聖騎士は動じない。

言葉を発する前から、僧侶の怖れは伝わってきていた。

とはいえ、どのような言葉をかけたら良いかが、わかるわけでもなかった。

返事を待ち切れず、僧侶は続けた。

「…こんなにも唐突に、世界は終わってしまうのでしょうか」

「そんな事は、私がさせない」

「でも、神が遺された予言と言われているのですよね」

「…そう言われているが、私には信じられない」

「神が残されたものであるなら、その予言を信じるのも信徒の勤めなのでしょうか」

聖騎士は、祭壇を見上げた。

慈愛の笑みを零す女神の尊顔が、あまねく人々を見下ろしている姿が、虹色に煌めくステンドグラスで表現されていた。

しかし、今はその笑顔さえも、どこか不吉で、また無責任にさえ感じられる。

「しかし、本当にそうなのだろうか?『いつか全ての信徒が、神のおわす国へと導かれる』という、教義と矛盾する予言だ」

「私、たとえ神のご意思であっても、死にたくないです…」

その言葉に聖騎士は向き直った。

あれほど気丈だった、信心の厚かった彼女が、もはや見る影もない。

しかし、たしなめる言葉も、背信であると咎める言葉も、励まし支える言葉も、空虚でしかないと感じ、口には出なかった。

代わりに出たものも、所詮は虚勢の言葉だった。

「教義のためなら、私は、いつでも死ぬ覚悟だ…」

「私は軍人じゃない!怖いんです、戦うのも、死ぬのも…」

神など、いない…

異端者に受けた言葉に激昂し、その者をいたぶった苦い過去が脳内に去来した。

今、その言葉が彼女達の背に重くのしかかっている。


教会や礼拝堂には、古い文献が収められている事が多い。

歴史的な価値や、教義の伝搬、そして単純に学習を提供する役目を担っているためである。

夕日差す図書室の座席に戻ってきた聖騎士は、重い兜を傍らに置き、上半身の甲冑だけを向かいの机上に無造作に放り、また調査に没頭し始めた。

護身のために大剣だけは、手元に立てかけたままにしている。

無数の資料を取り散らかしたまま、手当たり次第に手繰っていく。

ここ数日で、どれほどの資料に目を通したか知れない。

それでも未だに、めぼしい情報のひとつも見つけられず、彼女の中に苛立ちは募るばかりであった。

「"未知の軍勢が、街と言わず城と言わず、全てを飲み込んでいった"…」

報告書に改めて目を通しながら、背筋の凍る感覚を覚える。

明日には、あるいはこの夜にでも、愛すべき故郷たる我が国にも、この軍勢が押し寄せるかもしれないのだ。

死が迫る切迫したこの状況をどうにか打開する方法を見出す事こそが、目下危急の課題である。

聖騎士団の内でも混乱が生じており、どのような対策を講じるべきか、意見が分かれている。

徹底抗戦のために防戦の準備を進める、謎の軍勢の出処を掴む、屍に鎮魂をもたらす術を探る、等…

ただ、問題の軍勢がもはや姿が見えず、亡国に徘徊するのは死した国民のみという状況で、手がかりひとつなく、ただ次の襲撃の可能性に惑い、震えるしかない。

彼女もまた、そうした聖騎士団の中にあって、藻掻き続ける者の一人であった。

しかし、彼女には他の者にない特殊な役割があった。

教会の剣として監視者の任を負ってから、彼女は研究棟と礼拝堂、そして図書室を行き来する日々を送っていた。

魔導師達の動向を監視し、祈りを捧げ、あてのない打開策を求めて様々な文献に目を通す。

だから、他の聖騎士達なら確実に素通りしていたはずの情報に、彼女は資料を手繰る指を止めた。

ここ最近起きた事件、事故、死亡者の目録の中に残された記録。

『鉱山から、古い装いでありながら新鮮な死体が見つかった』

数ヶ月前に見かけた、異様な、そして忘れ去られた事件。

『未知の軍勢』『古い装いの屍体』『犠牲者の屍が蘇った』『最も古い予言』

これらが符合する何かを、確認する術を聖騎士団は持たない。

しかし、古術や古代の記録も取り扱う、禁忌なき研究に携わる者なら、このつながりを紐解けるのではないか?

この屍体を彼らの目に通せば、今回の事件に関して、何かがわかるのではないか?

確証はないが、彼女には見過ごせない、何か胸騒ぎのようなものをこの記録に感じ取った。

そうして、資料もそのままに、鎧を身に着けて再び図書室を後にした。


まだ明け方近くに、静まり返る街中で一人馬を静かに駆って荷車を動かす者の姿があった。

湖畔に面した港は朝靄に包まれ、朝日は曇り空に隠され、街は月夜のように薄ぼんやりしている。

港近くの塔の麓へと着いた馬は、いななきを上げて停止した。

馬の主は縄も繋がずに荷車から大きな荷物を肩に抱えて、部屋へと駆け込んでいった。

「邪魔するぞ」

人目を忍ぶために覆っていたフードを脱いで、聖騎士は挨拶しながら荷物を部屋の片隅に横たえた。

「…おはよ、今日は早いじゃない」

まだ寝ぼけ眼の魔女の傍らで、無数の猫達が主を起こすために鳴き声を上げている。

「もういいよ」

魔女の一声に、猫達は一斉にその声を止めた。

椅子に座ったまま眠っていたのであろう、彼女は大あくびと伸びとを終えてから姿勢を聖騎士に向け直した。

「…で、何?そのデカい荷物…」

「これが、何かの鍵になるかもしれない」

そう言いながら、聖騎士は荷物をくるんでいた布を丁寧に剥ぎ取った。

布の下から、土気色をした古風な兜と、その屍者の顔が顕になった。

それを目にした瞬間、直前までの気の抜けた魔女の顔に緊張が走り、机に立てかけた杖に手を伸ばし、左手で空を払うと、周囲にいた使い魔達が蜘蛛の子を散らすように部屋からいなくなった。

「…どこでこれを?」

「聖騎士団で保管していたものだ。数ヶ月前に、話題になっただろう。鉱山から、古い装いの屍体が…」

「すぐにこいつを破壊して!!」

次の瞬間、屍体は突然跳ね上がったかと思うと、近くに立っていた聖騎士を左腕で強かに打ち付けた。

ただの拳であったが、鎧はひしゃげ、聖騎士は薬棚に叩きつけられると、引きずられるように床に落ちた。

「な…ッ!?」

「なんてものを持ってきたの!?これは、まだ生きてる… 生ける屍よ!!」

魔女はそう言うと、詠唱を始めた。

布が完全に剥ぎ取られ、古風な兵士の屍体…生ける屍は、倒れもがく聖騎士を尻目に見つつ、魔女に向き直った。

(何故私のトドメを刺しに来ない?魔女を優先した?…理解しているから?)

頭を強く打ち朦朧とする意識の中で、聖騎士はその動く屍体の意図に思いを巡らせた。

生ける屍はその体で退路を遮りつつ、ジリジリと壁際へと追い詰め、やがて魔女の背に上階に向かうはしごが触れた。

逃げ場が完全になくなった事を確認したのか、屍体は跳躍し、両拳を振り上げて魔女へと飛びかかった。

「底が浅いわ!!」

次の瞬間、書物や薬瓶が乱雑に置かれた地面が白く瞬き、爆音と共に稲妻が中空にある屍体を貫いた。

電撃に囚われ、屍体は床に倒れ伏し、置かれていた物が弾け飛ぶ。

その下には、あらかじめ描かれていた魔法陣が姿を現している。

電撃を発した魔法陣は、黒く燻り、光の紋様がやがてただの炭の跡になった。

しかし、屍体は腕をついてもう立ち上がりつつある。

聖騎士はその様子を目の当たりにしながら、腕に深々と刺さったガラス片を抜きながら立ち上がろうとしている。

「悪いけど、せっかくだし資料になってもらうから… バインド<<呪縛鎖>>!!」

詠唱を終えた魔女が杖を高く掲げると、壁にかけられてあった鎖という鎖全てが独りでに動き出し、みるみるうちに屍体を包み込んだ。

屍体は、まるでミイラのように鎖に縛られた鉄の塊になり、身動きが取れない状態になった。

「こいつを、湖底へ!!」

聖騎士は頷くと、猛然と鎖の塊へと駆け出し、そのまま肩からタックルした。

鎖の塊は真横に吹き飛び、木板で閉ざされていた1階の窓にぶち当たり、窓を突き破って港の路地裏、小さな波止場に転がり出た。

突然の爆音や窓を突き破る音に、周囲の通りにざわめきが聞こえ始めている。

聖騎士は破れた窓から飛び出て、横たわった鎖の塊を今度は全力で蹴り込むと、再び屍体は湖面に向けてボールのように吹き飛び、波止場から少し離れたところに水音を立てて落ちた。

しばらくすると、建物の周りには爆音に目を覚まされた近隣住民が集まり、何事かと野次馬の人だかりが出来上がった。

魔女は帽子を脱いで戸口に立つと、作り笑顔で聴衆に応えた。

「ごめんなさい、朝ごはんを作っていたら、散った小麦粉に火がついてしまって…」

人々が部屋の様子を覗き込むと、数々の冒涜的な書物や薬瓶など姿なく、片隅に味気ない調理道具が幾つか転がっているだった。

「なんだい、お嬢ちゃん。気をつけなきゃあ駄目だよ」

「えぇ、聖騎士様がいらしていたので、張り切ってしまって…」

魔女は恥ずかしそうに後ろに目をやる。

その先では埃にまみれた聖騎士が鎧を手で払いながら何気なさそうな顔で割れた窓や木板を拾い集めている。

「そうか、聖騎士様がご一緒か。それなら、安心だ。特に報告もせんが、何かあったら、手伝ってあげるから、おじさん達に声をかけとくれ」

「ありがとうございます、おじ様。また、焼き立てのパイをお持ちしますわ」

そう言って朗らかに微笑み、しゃなりとお辞儀を返すと、まんまと騙された民衆は皆鼻の下を伸ばしながら去っていった。

「…随分周到な手際だな」

民衆が去ったのを確認すると、聖騎士は手に持ちかけた木片を放り出し、壁にもたれて座り込んだ。

折れた肋骨と深々と切った腕の痛みを押し殺して、咄嗟の魔女の演技に乗ったが、痛みやダメージがなかったわけではない。

「私は師匠と違って、実践派なのよ。聖騎士団の手入れに備えて、色々準備しといたのが幸いしたわ」

聖騎士は苦笑いを噛み殺しながら、自らに施す治療魔法の準備を始めた。

どこからか、小物を各々口にくわえた使い魔達が、ゆっくりと集まり戻ってきて、隠していた物を部屋に運び込んできていた。


その日の夜、山が投げかけるほのかな明かりが映る湖面には、二人が乗る小舟も映っていた。

二人は並んで座り、鎖の塊が沈んだ水面を見下ろしていた。

「アレは、なんだったんだ…?」

「生ける屍… 屍体を術で操って、使役する業よ」

「それなら見たことがある。征伐した異端者どもが使っていたが、だがアレは…」

「そうね、異端の使うそれともまたちょっと違う、アレはただの生ける屍と呼べる以上のものだった」

魔女は指先で毛先をくるくる丸めながら思案している。

「本来の"屍者使役"は、死んで崩壊寸前の屍体、あるいは崩壊済みの骨を使うの。でも、あの屍体は古臭い装備に似合わず瑞々しい屍体だった、しかも屍者使役とは思えない機敏さと思考…」

「そう、それだ。気になっていたのは」

聖騎士は膝をぽんと叩いた。

「あの屍体は、どこかおかしかった。これまで対峙した、どんな屍体とも違った」

「そうね… あの屍体は、どこかとつながっていたのよ」

魔女は船上であぐらをかいて、前後にゆらゆらと揺れ始めた。

これが考え事に没頭している時の仕草である事を聖騎士は知っている。

「"どこか"?」

「まず前提としてね、通常の屍者使役は、空いた器にそれを操縦する使役霊を入れて使うのよ。で、使役霊に命令を与えて、動かしてもらうわけ。魔法人形操作なんかもそう。」

「ふむ」

「でも、アレは違った… 例えるとそうだな、えーと、紐が見えたのよ。どす黒い、縄みたいな、紐なの。それが、命綱みたいにつながっていた… あれはまるで…」

「紐?今は?」

「切れてないわ。水と鎖の外に出せば、多分また動き出すと思う。でも、届いてもいないわ。今は。そうしようと思って、沈めたのよ。水に」

「水に沈めると、止められるのか?」

「そうじゃあないわ、なんて言うのかな… 使い魔!そう、使い魔!私のは、なんだけど、高度な使役術は使役霊に力を借りるんじゃなくて、自分の霊体そのものを直接対象物に入れるの」

「自分自身を!?」

魔女は嬉しそうに頷いた。

「んでね、自分の霊体を切り出して、本体とのつながりを保ったまま、私自身の意識を埋め込んで、自分自身がその子自身になっちゃうの。だから、座ってる私と、飛んでる子と、走ってる子と、荷物整理してる子と… たくさんの私になるの」

「そんな事が、出来るのか…?」

「たくさんの子を一度に使役しようとする時は、この方が効率が良いのよ?使役霊だと一人ひとりのご機嫌を伺わないといけなくて、それがもう超めんどくさくてサ!文句言う子の面倒見てたら他の子が言う事聞かなくなっちゃう事もあるし… その分、自分の霊でやれば、思いのままなの。たくさんでやると集中力要るからお腹減っちゃって、おかげで最近ずっとおやつが増えちゃったんだけど…」

「…あの、すまん。話が逸れてる」

「あ、ごめんね!えーとだから… どこまで話したっけ?えーと… つまりね、そうやって自分の霊を直接のつながりを保ったままで使役するやり方は、"気の隔絶"に弱いのよ。」

「それが、水?」

「うーん、めちゃくちゃ分厚い水の層だとか、密度の高い鉄の箱だとか。使役霊だと一度お願いすればそういう隔絶があっても少しなら大丈夫なんだけど、自分の元の肉体とつながりを保つやり方だとその"つながり"が途絶えるとうまく伝わらなくなっちゃうの。だから、魚の直接使役は難しいって言われてるんだけど」

「…隣国を滅ぼした軍勢が、この水底にいる連中と同じだとしたら?」

「…まさか、でしょ?」

魔女は、しかめた顔を上げた。

「確かに、屍体に霊魂をつなぎ続けてさえいれば、その肉体が崩壊させようとする力… 例えば、風化や腐敗に抗える。だから、いつまででも"死にたて"の肉体が維持できる。でも、その理屈で言ったら、あの古代人が、今の今まで霊体をつながれっぱなしだったって事に…」

自分で話しながら、得心していく。

聖騎士は、既に確信していた。

最も古い予言、屍者の軍勢に滅びた国、霊体をつながれたまま出土した屍体。

判明した全ての事象が、予言されたものの存在を示唆している。

魔女は、呆れたように脱帽して、片手で顔を覆った。

その表情は、辛辣そのものである。

「無茶苦茶よ。無茶苦茶だけど、そう考えるしか、ないって事、よね…」

「現在に至るまで生き永らえる何かが、あの鉱山に隠れて屍者を操っていると考えるのが、妥当という事だな」

「…あの、鉱山…?」

魔女の視線は、水面に向かった。

光が、消えていく。

ぽつり、ぽつりと。

目線を上げると、山の斜面に見える村々の仄かな明かりが、ひとつまたひとつと、消えていく。

その闇の波は徐々に、音もなく広がっていく。

やがて、その波の中に蠢く影がちらほらと見え始める。

続けて、遠くの方に響く、悲鳴や叫び声が、霧烟る小舟へと届いてきた。


城下の波止場から小舟で乗り付けた聖騎士は、すぐさま城内に兵達に警鐘を鳴らした。

「すぐに城門を閉めさせろ!!」

指示を出しながら、城内を駆け、自身は王の寝所へと向かう。

王や王妃の身辺に、既に危険が及んでいる可能性もある。

螺旋階段を駆け上る途中、塔の窓からは山際から湖畔沿いに侵攻するものと思しき軍勢の影が見えた。

時間がない。

塔の最上階へ駆け込むと、扉を開け放って叫んだ。

「陛下、すぐに船へ…!」

しかし、畏れ多くも駆け込んだ寝所に、王も、王妃の姿もない。

体調が優れず、休んでいたはずでは?

この状況下で、どこへ?

既に何者かが?

二人とも?

一瞬の内に思考が巡る。

そこに、爆音が響く。

音の距離から、湖畔から離れた城下町正面の門に、何かが着弾したものと思われる。

「陛下…!」

踵を返した先、下り階段の前に魔導師が待ち構えていた。

「陛下は、戦場へ向かわれた」

「貴様何を企んでいる!?」

「これは、陛下が望まれた事… 避けられぬ戦を知り、自ら民を守る事を選んだのだ」

言葉の代わりに、剣が走った。

しかし、振り抜いた先に男はいない。

振り向けば、扉の向こう、王の寝台の傍らに、魔導師は佇んでいる。

さらに、背後で再度の爆音。

続く金属音やとめどなく響いてくる破壊音、喚声。

聴こえてくる騒音は、城門近くで戦闘が開始された事を物語っている。

「くっ… お前の戯言に付き合っている暇はない!」

聖騎士は、魔導師を無視して階段を駆け下りていった。


聖騎士が駆けつけた先は、地獄絵図に成り果てていた。

踏み潰されバラバラにされ燃え盛る屍体があちこちに転がっている。

城門下に面した多くの建物が、まるで子供がおもちゃの山をなぎ倒したかのように雑然と崩れ、粉々に壊されている。

市内で最も大きな老舗宿も、真上から巨大な岩石を落とされたかのように中央にひしゃげ潰れている。

一体どんな生き物であれば、このような破壊を尽くせるのか?

生存者を、そして斃すべき仇を求めて駆ける聖騎士の眼前に、巨大な、蒼白な姿が映った。

天に聳える双頭の巨人が、屍者の群れを、掴み潰し、殴り潰し、あるいは持ち上げて喰らい、蹂躙している。

どこから現れたものなのか、その巨人は、山岳から湖畔を迂回して暗闇を行軍してくる軍勢に立ちふさがり、城門を守って戦っている。

門前で暴れまわる巨人に近づき、見上げた聖騎士は、その顔立ちを見て、その巨人の正体を、理解した。

たとえ大きく膨れ上がり2つに増えようとも、その顔立ちを知らぬ者はこの国にはいない。

間違えようのない、面影。

失われゆく王、失われゆく国。

聖騎士は、つぶやいた。

「陛下…」


~つづく~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る