第49話 騎士の条件

 俺が黙っていると、レインが再び口を開いた。

「しかしアーティ殿、ずいぶんと無茶をする。もはや叱る気力もないが……サイクロプスの棍棒が破壊されていなければ、確実に死んでいたのだぞ」

 いや、あれはまぁ、勝手に身体が動いたようなものなんだけれども。でも、ここはちょっとカッコつけておこうかな。

「レインさんを……仲間を見捨てて逃げることなんて、俺にはできない」

 ああ、ずいぶんとハードルあげちまったなぁ、俺。

「――アーティ殿……ふ、ふふ。貴殿は私なんかよりもずっと、騎士に向いているようだ」

「いやぁ……俺だったら、きっと騎士の厳しい訓練からすぐに逃げ出していると思います。騎士になんてとても……」

「アーティ殿。騎士にとって大切な心得を教えよう」

 レインはとん、と俺の胸を叩いた。


「恐怖に立ち向かう勇気。何事にも決して折れない心。何度倒れても、諦めぬこと。そして自己犠牲の精神。私の前に立ち、私を守ってくれたアーティ殿は……私の尊敬する騎士である、父や兄のようであったぞ。立派だ」

 まともに褒められて、とても照れくさい。

 ふいに、ぎゅっとレインが俺の手を握った。俺はびっくりして、レインを見る。

「アーティ殿。ありがとう。私は誰かを守ることはあっても、守られることは初めてだった」

 レインの顔がすぐそこにあって、俺は思わず目をそらしてしまう。


 その時だった。


「お兄ちゃーん!! 大変、大変だよ!! シルヴィアが……シルヴィアが!!」

 血相を変えた、何故か傷だらけのミーアが、俺たちのところへと走ってきた。


「……なんだって!?」

 俺はミーアからの話を聞き、愕然とした。


 一難去って、また一難。

 俺たちの長い長い一日は、まだ始まったばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る