第13話 とばっちりじゃないですか!

興味ない相手から好意を寄せられるって大変そうね。


ちょっと体質が特殊で、親子ともども不老不死だったり、『母神』のお仕事は在宅で行えますから、私は大好きなお部屋にいられます。でも、全員そうするわけにはいかないよね。


華の母様のお宅に、長女のエルフが遊びに来ています。

「あなたが顔を見せるなんて久しぶりねえ」

「便りがないのが良い便り、みたいな?」

「あなたのは『音沙汰がない』って言うんです」

「だって、仕事に恋に忙しいんだもの」

「まあ、私は隠居みたいなものだもんね」

「それでね。もう、ほんと聞いてほしいんだけどねー。しつこいのよ」

「何が」

「私に言い寄って来るのが」

「どうにでもできるでしょ」

「いや、断るのは気の毒な、良い奴なのよね。

 でも、私は好きな人がいるから、無理」

「若いわねえ」

「母さんに似たんじゃない?」

「どうかしら」

「でねー、母さんは私達を1人で育てたし、今も伴侶っていないでしょ」

「ええ」

「紹介しといた」

「?」

「だから、私がモテるのは母さんのせいでしょ? 責任よろしくぅ」



――あー、髪の毛つかみ合う感じの、お見せ出来ない状態で喧嘩してますね、あの母娘。華の母様も、娘さんも魅力的だから、異性を惹き付けるのは分かる。でも、今の状態を見せて上げれば、百年の恋も冷めると思うんだけどなあ。残念。



私の部屋に、歌の母様・小町の母様・お父様(武神)が集まっています。

碧のことで。曽祖父である族長も顔を揃えたいのですけど、私の部屋って少し散らかってるじやない? この人数で巨体の族長も入るのは無理だってことで、居間でしょんぼりしています。碧は何も知らず、碧の父と小町の母様の宿で過ごしていますね。


私 「歌の母様、小町の母様へ精霊王の言葉を通訳して下さる?」

歌 「ええ、それでは歌いますね」

王 『碧の体のことだが、「苦しみ」やあの子の「悲しみ」さえそちらで、

   手当してくれるなら、このままにして、精霊界で引き受ける用意はした』

小町「ひ孫のことで、調整して下さって感謝します」

王 『同じ村の仲間じゃないか。でも、これは最悪に備えた形だ。

   碧が死んで、精霊魔法使いの『歌』があれば呼び出せるという形になる。

   嫌だろ?』

小町「そうね。碧は精霊界も『歌』による召喚も理解していませんから、

   混乱するでしょう。私達家族も、悲しいです」

王 『最悪の場合に、私が出来ることは提示した。私の出番が来ないことを祈るよ』


歌の母様は、夫と何か言葉を交わし、通訳を終えました。


武神「何もしなくても、精霊王が受け止めてくれることは分かった。

   それで、お前の結論はどうなった?」

私 「あの子の体は、ああ生まれついているから、書き換えを行おうとすると、

   必ず問題が生じます。


   生じる問題自体を最小にしようとすると1000年先に生まれたことに

   する必要があり、これは碧の希望に添いません。


   巨大化した体があれ以上『育たない』ようにすると、碧の記憶が、

   ところどころ失われて、あの子はとても混乱するでしょう。


   巨大化する体自体を凍結させ、代わりに本来は成人しないと与えられない

   亜人としての体(今なら7つの人間の男の子の姿ね)を与え、書き換えによる

   矛盾を最小限にします。チビ竜姿は今のまま。チビ竜姿も亜人としての姿も、

   成長することは出来ます。大人になれば普通の竜・普通の竜族系亜人ね」

武神「最後のは良さそうだな」

小町「ねえ、『母神』。私に遠慮しなくていいから、話して」

私 「遠慮したわけじゃないのよ。えっとね、最後のヤツで行くと、

   あの子は曽祖父の族長を凌ぐほど伸びる可能性は持っているけれど、

   竜族の亜人としては極端に寿命が短いの。

   人間と同じ程度しか生きられない」

歌姫「家族と必ず生き別れる健康な体か、

   じきに生き別れる病んだ体のどちらかを選ばされるのね」

私 「みんなはどうしたい?」

小町「私はたまたま、『母神』の育ての親だから、家族の問題へ彼女が

   どうか関わるか見せて貰いました。誰だって自分の大切な存在に出来る限りの

   ことをしてあげたいでしょ。なら、ここで私が意見を言うのは不公平だわ」

私 「そこは、私が公私混同したんだから気にしなくていいのよ」


歌姫「寿命が違いすぎる家族と死に別れることは、経験があります。

   必要なら、相談して下さい」

小町「頼りにしてる」

武神「あの子の両親と、あの子自身にどう伝えるかだよな」

私 「それは、武神に一任します」

武神「竜族の連中のことなら、オレが適任だろう。分かりました、母神よ」



お父様(武神)は、竜族の里へ、碧の父を連れて魔法の「転移」を行いました。

碧は小町の母様と留守番です。

武神は、碧の両親の家に案内されました。碧のお母さんは妊娠中でしょ? 心身の疲労が酷いので、武神が神聖魔法系の奇跡を発動し、話を聴ける程度に体調を整えています。


武神「――というのが、我ら神族からの答えだ。お前たち夫婦の意見を聴きたい」

碧父「私達があの子を必ず看取ることになるのですね……」

碧母「『書き換え』という治療を選んでも選ばなくても、苦しいですね」

武神「手は尽くしたが、これしか出来ず済まない」

碧母「神族の方を責めたいわけではないのです。

   私達夫婦は、親として息子にしてやれることが少なすぎて悲しいのです」

武神「出来ることはあるぞ。お腹にいる子を大切にしなさい。

   碧は『カッコイイお兄ちゃん』になると張り切っている。

   そして、残酷な選択を選ぶかどうか、決めるのも、お前たちの仕事だ」


碧父は碧母とうなずき合い、自分たちの答えを述べました。



先日、14年後の王子達の物語をお聞かせしましたね。それから2年が過ぎた16年後の物語を、話させて頂きますね。


大勢は決し、諸国の王達の財産や王城は、美の神の教団の管理下に入りました。虚栄心を満たしたい貴族趣味の富豪が買い求める事が無い様に。

そして、諸国の歴史を誰でも閲覧できる美術・博物館として保存する為に。

火の君は「受け継ぐ者が現れなかったから」と、宝物庫に保管されていた夫の愛刀を受け取りませんでした。ですから、旧・王都の王城へ行けば、来歴とともに展示されています。


城下町にある、「鉄棍会議」の見習い文官の自宅へ、とある神官が訪れています。

見習い文官は元王子(31)、とある神官(40)は元他国の王で、元王子の最大の政敵でした。また、彼らは従兄弟でもあります。


「正気の沙汰ではないと思ったがなあ」

「最初にあなたを説得出来なければ、私は処刑されていますよ」

「『鉄棍会議が生まれた段階で、私達は詰んでいた』と言われてはなあ」

「ははは」

「『根の腐った木はいずれ倒れる。分かっているなら、被害を受けないように

 切り倒す立場に来ないか』と言われるとはな」

「悔いてますか?」

「大半の王族と貴族は私が説得した。恨まれてはいないが、相談事が多くてな」

「第二の人生に神官を選んだのは、そのためでしたか」

「どうだかな。

 私達元王族は、政略結婚を続けてきた。私達なら従兄弟だし、

 一番遠縁でも、数代遡らずに先祖が同じになるだろ」

「はい」

「この関係で、利害の対立を理由に、殺し合いを選びたくなかった」

「それはあなたが優しいからですよ。私は、躊躇なく行う」

「まったくなあ。野蛮人には勝てんよ」

「その野蛮人と、従兄弟をやっているお気持ちをどうぞ」(ニヤリ)

「じつに面白かったぞ」(ニヤリ)


「私はご覧の通り、見習い文官ですけれど、神官で食べて行けますか?」

「ああ、家族を養えている。なんとかなるものだな」


「お前が私を説得する頃、民の間に『領主ではなく、鉄棍会議へ納税すれば、

 税は6割で十分らしい』と噂が流れたな。あれは、お前の友の仕業か」

「さあ、どうでしょう。手品の種を聞くのは野暮ですよ」

「あの時、鉄棍会議は民を威圧するのではなく、それぞれの村へ派遣した者を

 通して、民に寄り添っただろ」

「ええ」

「『事実上、鉄棍会議が統治してる』という言葉を思い知らされた。

 我ら王族なら、ああは出来ない」

「無理もありません。古すぎる仕組みですからね」


「私が王族や貴族を説得する時に、一番効いたのは何だか知ってるか?」

「なんでしょう」

「骸骨村のノミ達のおとぎ話あるだろ?

 その場で死ぬか、ダンジョンのトラップへ引っ越すかってやつだ」

「それって、史実なんですよね」

「初耳だ」

「骸骨村は今でも結界に守られていますし、賢者に確認もできますよ」

「マジか」

「ちなみに、問題を指摘したのは猫です」

「謎すぎるだろ。あとで、詳しく聞かせてくれ。

 でな、交渉相手にこのおとぎ話を出して、『暴力を好まない私と話すか、

 鉄棍女王のメイスを受け継いだあの王子に殴られるか選べ』って笑うと、

 だいたい折れた」

「私を、有効活用して下さったようで何よりです」


「鉄棍会議の配慮もあったが、民からの反対は無かったなあ」

「それはそうですよ」


「元貴族・王族で困っている者はいませんか?」

「お前に『村人として初めて学院で学んだ男の一生』を聞かされただろ?」

「ええ」

「ぐずぐず言うヤツには、話したんだ。だから、城下町で塾を開く者が多いな。

 元王族・貴族が消え、税の負担が減り、余暇と自由になる金が少し増えても、

 村人全員が学院へ入れるわけではない」

「そうですね」

「元王族・貴族は、学院を出ているのが普通だ。ここで彼らの役に立てる」

「ええ」

「商いをしたい者・冒険者をしたい者・村や町で暮らしたい者は、

 それぞれ手ほどきを出来る者に繋いだ。

 そして、何もしたくない者は、世俗を捨て各教団で信仰生活に入った。

 この短い期間にしては、上々だろう。皆、暮らせている」

「無血でやるには、元貴族・王族を路頭に迷わせないようにすることが、

 難問でしたから、そう伺えて嬉しいです」

「お前もそうしているが、私も元貴族・王族にはこう伝えている。

 『私達は、もうただの民になった。無駄なプライドは捨てろ。

  困ったら、相談に乗るから来い。歓迎する』ってな」



これもまた16年後の物語です。叡智の女神の降臨を受け、人生が変わった男の子がいましたね。元王子を先輩と呼ぶ青年。彼は16年後の時点では24歳になっています。

彼はまだ学院生ですけれど、世の中を変えた1人として、名を知られています。


彼は今、とある富豪の応接間にいます。富豪は知的で細身の中年男性です。


「私は財を成す才覚はありません。

 自分の出来ないことを成し遂げるあなたを尊敬しています」

「ここは、本音で話しませんか?

 王族と貴族を廃したあなたなら、私も目障りではありませんかな」

「こう考えています。

 生まれつき立場が保証され、ほぼ何も民に与えない元王族・貴族。

 対して、親から財産を引き継いだとしても、商いに失敗すれば

 破産する恐怖も抱え、民に与えた事から財を成すあなた達。

 まったく異なります」

「そう考えて下さるのですか」

「私達はあなたを敵視しません。あなたが稼いだ財産をどうしようと

 あなたの勝手だ。貴族趣味に走ろうと、蓄財しようと」

「ふむ」

「鉄棍会議もあなた達富豪を敵視はしません。課税額を増やすつもりもありません」

「ええ」

「ただ、あなたが悪目立ちすぎれば、そうした対応も必要になります」

「でしょうね」

「富豪には富豪のプライドがありますよね。

 どうぞ、したお金の使い方をお願いしたいのです。

 迷ったら、末の神の教団へ寄進して下さい。

 あそこの姐さんがうまいこと使いますから。

 民が潤えば、あなた達も潤います」

「お約束はしません。しかし、確かに聴きました」

「それで十分です。ありがとう」


学院生が帰ると、富豪は末の神の教団長とすぐ交渉しました。

「『寄進御礼』という札?」

「形は何でも構いません。ようは、私の店は、売上の一部を

 あなたの教団に寄進していることを分かるようにしたいのです」

「なるほどねえ。民はうちの教団を気に入ってくれているからね」

「いかがでしょう」

「断る理由ないだろ。約束しよう。派手にやんな」


末の神の教団は、信者達が、民の面倒をよく見てあげてるの。短期間に勢力を伸ばしただけはあるわよね。

「売上の一部は、末の神様の教団へ寄進しています」って出来るようになりました。

値段が同じなら、そっち行くよね。他店も真似するじゃない?

こうして、富豪達のお金の使いみちが増えたの。



碧のことに集中したいけれど、神族の面倒を見るのも仕事だものね。

天界で、彼らの話を聴いています。

先日の14年先、そして今回の16年先の未来を見て――


主神   「伝統の破壊だ」

豊穣神  「血が流れなかったから私は満足」

叡智の女神「少しは活気出るんじゃない?」

美の神  「美術品だけでなく、流血により失われる者が出なくて良かった」

末の神  「うちの教団がすみません」


うちの両親は、この件は私に一任するって言って、碧のことで動いていますね。

近い将来の世の中の変化より、身内の子を優先する両親でほんとにすみません。


叡智の女神が、愉快そうに私に言うの。

「母神よ、私達もいずれお払い箱になりますか?」

「未来を読まないの?」

「行えるのはあなたですから、未来を読むまでもありません」

「私は民が求めなければ、行わないわ。

 そうならないように、振る舞いなさい」


王族と貴族は、永遠に続くと思われた役割に終わりを迎えました。

あと16年もすれば、彼らの役割は終わります。

まるで長命種のエルフが、突如寿命の終わりを突きつけられるかのようですね。

「役割」もまた、「死」を迎えるものなのですね。



さ、碧のことを語りましょう。

お祖父様が、碧を抱き族長(小町の母様の夫)と共に、碧の両親が待つ竜族の里へ飛びました。転移の魔法ですね。


「お母さん、ただいま。元気?」

「ありがとう、元気ですよ」

「それにしても、今日はお客さん一杯だね」

「ええ、みんなあなたに会いに来てくれたのよ」


お父様(武神)・族長(碧の曽祖父)・碧の両親・碧・お祖父様(賢者)が、碧の家にいるわけですね。小町の母様は留守番です。お祖父様が碧に話しかけました。


「碧。お前に先日、病のことは話したのう」

「うん」

「あの続きをしたいのだが、碧は誰から聴きたい。

 ここにいる大人は、誰でも説明することが出来る」

「賢者さんがいいです」

「ご指名か。なら、頑張らねばいかんのう。じつはな――」


「うーん。今すぐ苦しくなっても不思議無い病気なんでしょ」

「そうじゃ」

「僕らの族長様みたいな大人の姿ではなくても、

 村の子くらいの大きさの亜人の姿になれるんだよね」

「うむ」

「今の、猫くらいの大きさの体は残るんだよね」

「お前が成長すると共に変化はするぞ」

「そうだね。それで、寿命がすごく短いって言っても、人間程度はあるわけでしょ」

「うむ」

「猫達と比べたら5倍もあるじゃない。

 今すぐ駄目になるなら、僕はカッコイイお兄ちゃんになれない。

 でも、それだけ時間があれば、カッコイイお兄ちゃんやるには十分だよ」

「大きくなれば、不安や不満は必ず出る。その時は、ワシでも、

 ここにいる大人たちでも誰でも良いから、相談しなさい。

 一緒に考えよう。約束できるかな」

「うん、約束する!」


こうして、私は碧へ『書き換え』を行いました。エルフほど長命では無くても、かなり長く生きられる竜族にとっては、苦渋の決断よね。

寿命の延長や、不老不死化は1女神に過ぎないお母様でも気軽に行えるのに――気軽に行っちゃ駄目なのよ本当は――、7つのチビ竜に対しては、その奇跡を行おうとすると、凍結させてある病気と干渉してしまうから行えない。

とても歯がゆいです。


小さな男の子の姿(鱗が少しと、細い尻尾があります)になれるようになった碧は、新しい体を両親達に見てもらい、ひとしきり甘えました。そして、また骸骨村へ戻って来ました。竜族の里は幼い子が少ないから、村の子と遊びたいんですって。

亜人の姿になれば、一緒にできる遊びも増えるものね。



そうそう。16年後の未来では、こんなことも起きるのよ。

見習い文官(元王子)って一人息子でしょ。城下町に家を借りて、両親と暮らしています。


元王妃「元王族は、ずっと無料の入場券を貰ったでしょ」

元王子「各国の王城の美術・博物館のことですか」

元王妃「私は、あれで十分なの」

元国王「私は、息子を王に出来なかった。城下町での暮らしは楽しい。

    気楽でとてもいい。だが、先祖に合わせる顔がないなあ」


国王は、一人息子に養って貰うことを気にしています。


元王子「しかし、お父様は民にほとんど何も出来なかったでしょう」

元国王「形だけの王であることは認める」

元王子「なら、民の税に支えられて、辛くはありませんか」

元国王「そうだな」

元王子「私は息子です。頼って下さい。

    王家の贅沢な暮らしは出来ませんけれど、

    お父様・お母様に不自由はさせません」


そこで、扉をあけて、火の君がつかつかと入ってきました。

「話は聞かせてもらった。幾ら必要?」

「「「火の君様」」」

「ダンジョン最下層へ潜れる者は少ない。必要なだけ稼ぎますよ」

「「「ご先祖様にそんなことさせられません!!」」」


火の君って、意外と過保護なのねー。



そして、16年後の未来では、「王」を決める必要がありました。

元王子は、末の神の教団長と、100名程度の教団員を連れて、骸骨村へ向かっています。道中で――


「あんたさあ、『教団を私に下さい』と言ったわりに、継がないわよね」

「姐さんの代わりはいませんから」

「予想以上に上手くやったから、お前に任せるつもりなんだけどね。

 私は冒険者に戻りたいのよ」

「私は、教団長になるより、見習いの文官やる方が分相応です」

「欲のないヤツだねえ」

「でも、私が姐さんの右腕なのは変わらないでしょう?」


そんな教団長の「右腕」を自負する元王子は、うちの村長を説得していました。

村長の部屋に、元王子と村長がいます。

「お断りします」

「単なる名誉職です。たまに国王って呼ばれる程度ですよ」

「不死者が国王を名乗るなどとんでもない」

「村長を300年やって、よく言えますね」

「王族と貴族を廃したのはあなたの都合でしょう。

 どう考えても、これ、とばっちりじゃないですか。

 私は村長を続けます」

「国王が村長を兼任するのは難しいですね。村長はやめてください。

 で、この村に新たに村長を立てないこと、国王であるあなたが、

 『自らの家族』を大切にすること、は何の問題もありませんよね」

「なぜ私なのですか」

「不死者だからです。国葬が必要ない、引き継ぎも不要だ」

「名誉職なら、国葬は不要では」

「権威は継いで欲しいですからね。あなたの風格なら十分でしょう」

「断ってるのに帰ってくれないんですけどねえ」

「あなたは旧・王都へ行く必要はない。今の暮らしをすればいい。

 王は役割であり、王城は必要ありませんから」

「うーん」

「あなたは村の子達に教育を与えてきました。村人から初めて、学院へ入った子が、

 なぜ受け入れられたのかも、経緯を知っています。

 有限の命を持ったあなたの教え子は精一杯生きたのに、

 あなたは正当な理由も無く出来ることから逃げて、

 死んでいった教え子たちに恥ずかしく無いのですか?」

「彼らの顔を思い浮かべると、断れないですね」

「良かった。では、どうぞ外へ」


村長の家は、末の神の教団員達・ノリの良い村の衆・ご先祖様スケルトン達に囲まれています。教団長は事情を察してニヤニヤしています。


教団長の右腕を自負する元王子は、ありったけの声で叫びました。


「骸骨村へお邪魔しているてめえら、オレの話を聞けえ!」

「「「「「うす!!」」」」」(野太い声)


「この、イケメンが、たった今からオレたちの唯一の王だ!」

「どうも、国王になりました」

「「「「「うす!!」」」」」


「堅気の皆様に、迷惑かけてねえだろうな!」

「「「「「うす!!」」」」」


「オレらは、生まれ育った世界を捨て、精霊を目指すなんて、クズだ!」

「「「「「うす!!」」」」」


「だが、お世話になったこのクソッタレな世界に、オレらなりのやり方で

 恩返しが1つできた。今日、名誉職としての国王が生まれた!」

「「「「「うす!!」」」」」


「お前たちは望むなら、末の神が、精霊として生まれ変わることを確約する。

 死に急がずに、残りの命を使ってみたら、出来ることもあったろ?

 オレらのケツは、末の神に持たせる。

 好きにやれ。派手にやれ。上手いことやれ。

 愛してるぜてめえら、オレらなら、できる!」


呆然としている王(元村長・黒服美形)を、叔父様(末の神)が慰めています。


「うちの教団がほんとすみません。あれが、あの子達のやり方なんです」

「自由過ぎませんか」

「教団の性質と、教団長を任せた人物の、相乗効果でしたね」

「指導しないんですか」

「私には無理です」

「あなたの教団ですよね?」


叔父様は、苦笑いして肩をすくめていました。

「末の神の兄ぃ」とか「兄貴」って呼ばれることあるって、王(元村長)に話して聞かせたら、どんな顔するかしら?

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