最高神なのに不自由 ~守れるの? 私のお気楽ライフ~

ハコヤマナシ

プロローグ

第01話 村ごとヴァンパイア化したの?

笑わないで聞いて下さる?

この前18歳になった私は、この世界の最高神である『母神』の座に就きました。ざっくり言うと、7柱いる神族の長です。

創世神話とか私の役割とか細かなことは、また後日お話しします。


あのね、こんなことがあったの。

皆様はヴァンパイアをご存知よね。吸血して眷属にする子達。彼らは彼らで、工夫して生きているから、そっと見守っていたの。神族の1柱 主神の信者の多い地域でもありますし、まずは主神に任せようと思って。


そしたら、欲望が強い子がある村を襲い、眷属になった子達が次々と村人を襲い……。あっという間に、村1つ、ヴァンパイア村になっちゃった。

――私は、ヴァンパイア村を隔離し凍結しました。



「勘弁してよお。仕事が増えたあああ」

私は、骸骨村の自室でうめいていました。(うちの村にはご先祖様スケルトンという、土葬時代のご遺体がスケルトン化して、日向ぼっこしたりしてるから、そう呼ばれるんです)

ぼっさぼさの髪をかきむしり、対策を考えています。隔離と凍結だけしたから、放置ってわけにもいかないよね。

いかないけど、ベッド(オフトゥン)が誘惑するのよ。寝ちゃおうかしら?



この世界の天界は、すごく無機質で殺風景なの。壁も天井もなく地平線のある「部屋」に、一抱えある球体が7つ転がっています。

今は、2つの球体に、にぶい光が宿っています。

私は彼らを見下ろし照らす位置にいます。天界での私は光として存在しています。


私は、呼び出した主神と結婚と恋人の神へ、思念で事情を伝えました。

人間の言葉や、精霊語よりも、思念で意思疎通すると、手っ取り早いんです。


「という訳です。釈明はありますか?」


主神     「信者達を中心に見ていて気づきませんでした」

結婚と恋人の神「どうして私も、お呼びになったの?」


「主神よ。もっと柔軟にお願いしますね。この件は、私が預かります。

 帰って構いませんよ」

球体から主神の気配が消えました。


「結婚と恋人の神、いいえ元邪神。ヴァンパイアはそもそも、

 あなたが邪神時代に生み出した存在でしょう?」

「お言葉ですけど、邪神時代のことは記憶していません。

 それに、創生神話時代の『母神』が邪神を産んだのですし、

 邪神とはですわ」

「あなたとは、じっくりお話をする必要がありそうね。

 でも、今は、解決が先です。帰っていいですよ。

 私が対応しますから、余計なことはしないこと」


球体から結婚と恋人の神の気配も消えました。


……公私混同は避けたいですけど、愚痴らせて下さい。

結婚と恋人の神は、私の実母なんです。

頭痛いわあ。

――私も天界を後にしました。



「ごはんよー」

「仕事してるから、あとでー」

「顔揃えなさい!」


私は、愛するベッドから抜け出して、衣類や書籍が散らかった部屋から、食卓へ向かいました。手櫛で寝癖を少し整えます。髪は腰まで伸びていて、私は愛用の灰色のローブをまとっています。

父・母・叔父・祖父と共に、お昼を頂きます。


私 「お母様ったら、邪神時代のこと開き直るのよ?」

祖父「お前も苦労しとるなあ」

母 「だって、知らないものは知らないじゃない」

私 「でも、問題が起きた元凶はお母様でしょ」

母 「見落とした主神のせいにしましょ」

私 「もうやだあ」

父 「ははは、君らは仲がいいね」

私 「お父様、何よその超解釈は」

叔父「起きたことは仕方ありません。姉様を責めるより、

   隔離・凍結されている者たちのことを考えましょう」

祖父「うむうむ。孫娘のお手並み拝見じゃな」


食後、私は叔父(末の神・7柱の末弟)と、居間で話をしました。

話に混ざりたそうな母は、父が外へ連れ出してくれました。

さすがお父様、愛してる。


「君は、仕事モードと、日常の落差がありすぎるね」

「でも、可愛い姪なんでしょ?」

「はいはい、可愛い可愛い。小町魔王さん(元魔王・主人公の育ての親の1人)に

 頼んで、お化粧して、華やかな衣類を見繕ってもらったら、もっと可愛いよ」

「そういうのは、叔父様の彼女に言って。私は興味ないもん」

「君は、私に彼女が居ないの、知らないの?」

「家族の私生活はように気をつけてます」

「そうかあ。叔父さんは、仕事が楽しいから、興味なくてね」

「ふーん。歌の母様(主人公の育ての親の1人・歌姫・精霊魔法使い)が、

 叔父様に親切にしてもらったエルフが恋してるって言ってましたけどお?

 恋する乙女に冷たくするんだ」


叔父はとぼけて話題を変えました。なにそのとぼけ方、イラッとするイケメンね。

「で、君はあの村のこと、どうしたい」

「私がことにしても、

 吸血という欲望を抱えた子は残るじゃない?」

「そうだね」

「周囲に被害が広がらないようにしつつ、

 ヴァンパイア化した子達がと共存できるようにしたい」

「いいね」


この世界のヴァンパイアにとって、「吸血」は眷属を増やすこと、食欲を満たすことの他に、性欲を満たすことも兼ねています。

どうしようかなー。


「ねえ叔父様。ヴァンパイア達は、

 私が彼らのあり方を無害化します。それでも、村が属する、

 国王の理解が無ければダメじゃない?」

「私が王家と渉外するから、君は『書き換え』に専念してくれるかい」

「それでいきましょ」


私は、世の中に直接関わらないように気をつけています。

例えば、世界中の任意の人と一斉に会話して要望を聞き対応出来ます。

ねえ、そんなことしたら、王国も学院も教団も形骸化するわよね。

人々だって、自らが信ずる神の上位互換である私に乗り換えるでしょうし。

そんなの悪夢だと思いませんか?


――という大義名分がありますので、私はこうして、大好きなお家に引きこもっていられます。お仕事も在宅勤務ですし♡ 最高神のささやかな特権です。



叔父(末の神)は国王に連れられ、王城の離宮「火の宮」へ案内されました。

300年以上前、この王国には中興の祖である『鉄棍女王』と、その2人の息子書王・刀の君がいました。

刀の君は、『歌姫(歌の母様)』の長女で、ハーフエルフの火の君を妻に迎えました。ハーフエルフは長寿でしょ?

彼女は今もこの「火の宮」で王族を見守っているの。


火の君「あらあら、国王ったらまた私を頼るの?」

国王 「大切な問題です。火の君様は、中興の祖達のこともご存知ですから」

火の君「末の神、お久しぶりね」

末の神「お健やかで何よりです」


末の神は、ヴァンパイア化した村のことを説明しました。


国王 「末の神。あなたは、どんな選択肢をお持ちですか」

末の神「現在、『隔離・凍結』している彼らのあり方を変え、無害化出来ます」

国王 「私は主神の神官でもあります。邪悪な存在は、土に還したい」

末の神「それが普通でしょうね。火の君はいかがですか?」

火の君「無難ではあります。しかし、柔軟さに欠けてもいますね」

国王 「中興の祖達なら、違った選択をしたでしょうか」


火の君は一拍置いて、口を開きました。


火の君「少なくとも、私に頼らず決断できましたね」

末の神「火の君、時代が違います。当時、『中興の祖』が存在したなら、

    鉄棍女王も相談することを選んだでしょう」

火の君「そうね。私の長寿が、この国の呪いになってしまったかしら」

国王 「とんでもないです。私達は、火の君様が王族を家族として

    見守り続けて下さることに、どれほど励まされたか」


火の君は寂しそうに笑いました。


火の君「ねえ、愛する国王。今回私は、中興の祖達ならどう判断したか、

    あなたに話しません。私の意見もまた。

    見ていますから、やってごらんなさい」

国王 「わかりました。末の神と話し合ってみます」


火の君は、国王と末の神へ微笑むと、愛用の長槍を手に、部屋を出ました。


「やはり、神官としても王としても、厳しい選択を取りたくなります」

「ええ」

「しかし、村人は犠牲者でもあります。神聖魔法で土に還すことは、

 感情的には悲しく思うのです」

「国王、まずは無害化の中身をご説明しましょう」

(叔父は、私が送った「書き換え項目」を伝えました)


・吸血せず、飲食で肉体を養える

・吸血により眷属化する能力の剥奪

・吸血欲求は歯が痒い程度に抑えるので、牛の骨でもかじらせる

・ヴァンパイア化により失われた性欲は戻し、

 ヴァンパイア同士で子を成せるようにする

・不変だった肉体は、ハーフエルフの育ち方

 (人間を基準にすると、20代前半の肉体で成長が止まる)と、寿命に準じる

・太陽に弱い性質は残るので、ヴァンパイア村のみ永遠に夜にする


「邪悪な生き物とはいえ、そこまで在り方を変えられて戸惑いませんか」

「土に還されるよりマシです。

 幸い、村人達はまだヴァンパイアの体に慣れていません。

 それに、村を襲ったヴァンパイアは責任を取らせる必要があります」

「ヴァンパイアへの嫌悪感から、神聖魔法の行使を考えてしまいますが、

 『処刑』するよりも、生かして責任を取らせることも必要ですね」

「ヴァンパイア村の者と話をつけたら、この国は彼らを受け入れてくれますか」

「ご存知のように、この国は主神の信者も多く、教団もあります。

 彼らの心理的抵抗は大きいでしょう。ですが、説得してみせましょう」


末の神は、国王と握手を交わし、王都を後にしました。

私の暮らす骸骨村(かつてこの国で一番貧しかった寒村)も王国の辺境にありますが、ヴァンパイア村は骸骨村から見て王都のさらにずっと向こうに位置します。


叔父がヴァンパイア村に着いたのを確認し、村を襲ったヴァンパイアのみ、凍結を解きました。もっとも、村から出られないように「隔離」は続けています。


「神がくるか」

「ええ、いきなり現れたかのように感じられるでしょう?」

「私を殺すか」

「いえ、取引に来ました」


末の神は、彼の体が「書き換えられた」ことを説明しました。


「それは、ヴァンパイアとしてどうなのだ?」

「あなたは他のヴァンパイア達と異なり、欲望に負けました。

 そのままにしておくほど、私は甘くありません」

「ぬう」

「このまま消滅するか、村人と共に王国の民となるか選びなさい」

「神であれ、抗って見せるわ」

「霧になることも、コウモリになることも、犬になることも、私が禁じます。

 あなたは、私との話し合いが終わるまで、そこに居なければいけない」

「くぅ」


村を襲ったヴァンパイアは、末の神を憎々しげに睨みつけます。


「消滅を選ぶか?」(低い声で)

「アンデッドとはいえ命は惜しい。従う」

「やあ、話のわかる方で助かりました。あなた達を滅ぼすのも、悲しいですからね」

「それで、どうすればいいのだ」

「ま、見ていなさい」


私は、叔父が対応できるように、村人達の「凍結」も解除しました。


「村の皆さん、集まって頂けますかー」

末の神は、村人達に、起きたことと、新しい体がどう「書き換えられた」のかを説明しました。


1人の若い女性が、末の神に話しかけました。

「あの、神様」

「なんでしょう」

「私は、夫を吸血してヴァンパイアにしてしまいました」

「はい」

「子どもたちも人間にしておくと、襲われると思い、私が吸血しました」

「はい」

「この罪は許されるのでしょうか」

「あなた達は、被害者であり加害者です。しかし、ヴァンパイアとしての体を

 よく理解していませんでしたし、そもそも村を襲ったが原因ですよね。

 緊急事態でしたから、気にしなくていいですよ」


末の神は、こんな風に、ヴァンパイア化した村人の相談を粘り強く行いました。素直な子は、さっそく牛の骨をかじったりしています。歯がかゆいのね。


末の神は、襲撃者ヴァンパイアを呼び寄せました。

「彼らは、あの体で生きてみようと考えています」

「見ていた」

「『書き換えられた』とはいえ、あなたにもヴァンパイアの挟持があるでしょう」

「ああ」

「あなたの眷属は、あなたの行為によって、国中から敵視される立場に陥りました。

 彼らを守り、共に暮らすことは出来ますか」

「面倒なことになったな。だが、逃げれば恥だ」

「ありがとう。では、永遠に夜になったこの村で、どう仕事をし、

 納税するか考えましょうか」

「待ってくれ、私は独りで生きた。国の仕組みは分からない」

「では、私に任せますか?」



この国って、領主の街に王立図書館・分館がある程度で、民の娯楽ってせいぜい読書なのよね。だから、叔父さんに頼んだの。

「無害化したヴァンパイア達が、民に娯楽を提供できるようにしてあげて」って。


怖いもの見たさってありますよね。

ヴァンパイア村の人達は、入場料を取り、遊びに来た人達を怖がらせたり、あるいはヴァンパイアとしての生態を説明するなどしています。

村を襲ったヴァンパイアは「見世物ではないか」と怒っていた割には、迷子を村の案内所へ連れて行ったりして、馴染んでるわね。


彼らは入場料で暮らせる、王国には名所が出来る。

この件は、こう決着しました。



「疲れたぁ」

「おやおや、実労は私だよ?」

「『役割の書き換え』って面倒なんですからね。0から産んだ方が早いくらい」

「それは面倒だ」

「でしょう? オフトゥンに帰るぅ」

「そろそろ夕食になりそうですよ。ほら、姉様が呼んでる」

「ご飯いらないって言うのは……」

「姉様も兄様も、認めないでしょうねえ」(悪い笑顔で)

「もうやだあ」


お母様は、覚えていないことだけど、迷惑かけたからと、私の好物を作ってくれたわ。でも、味がわからないくらい疲れている時ってありません?

どうせなら、美味しく食べられる体調の時がいいのに。

これ、絶対好きな味なのに!!



愛する汚部屋へは、まだ帰して貰え無さそう。仕事頑張ったのに、なんなの!。

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