エルフマーキング@お父さん

 お父さん、魔法をブッ放したいです……!

 麗しのエルフは熱い吐息と共に内に秘めた情熱リビドーを口にした。

 端的に言って、その姿はとてもセクシーであった。だが内容は破滅的なものだ。


「なにを言うんですか、この子は」

「あだぃっ……‼」


 咲人チョップ――手刀がアンの額を打ち据える。

 父性故の行いなので暴力ではない。

――どうしてこう……色気満点な調子で色気のないことを。 

 いや、酔っ払い相手に何を言っても無駄だ。それは世の真理に違いない。

 たとえ異世界であってもそれは変わるまい。

 そして相手がエルフであっても変わるまい。


「だってぇ……! このままだと、漏れるぅ~‼」

「お手洗いですか? 仕方ないですね。連れて行ってあげますから――」

「違うよっ‼」


 アンが抗議する。


「魔ぁ、力ぅ‼ 魔力が漏れるのっ!」


 魔力も溜まると漏れ出るらしい。

 魔法を使ったり出来ない咲人にはいまいちピンとこない感覚だ。


「はぁ……じゃあ、どうしましょうか?」

「撃ちますっ! 魔法!」


 元気に挙手するアンの額へ吸い込まれる咲人チョップ。父性故の行いなので暴力ではない。


「あだぃっ……‼」

「アン、暴力的な魔法は駄目です」


 何度か目にしているアンの攻撃魔法。跳躍と飛翔の魔法以外をコントロール出来ていない彼女の魔法は破壊的だ。魔力が漏れるくらい溜まった状態でそんなものを放てばどうなることか、咲人は想像したくなかった。


「なにか、魔力を発散させる方法はないんですか?」

「う~ん……」


 アンは首をひねる。咲人もどうしたものかと考えを巡らせる。

――ジョギングでもして汗かけばスッキリ、とはいかないか。いや、そもそも走れる状態じゃないか。

 魔力をほとんど持たない咲人にはアイデアが浮かばない。しかし、アンは現在酩酊状態だ。このままには出来ない。

――こうなると、北の高原に行って撃たせてあげるしかない、か?

 咲人は諦めて余った魔力の廃棄方法を考え始めた。その時、アンがポンと自分の手を叩いた。


「あっ‼」


 なにか閃いたようだ。



 § §



「あ、あのね、サキト……?」

「はい。なにか良い方法が?」


 魔力の発散方法を思い付いたようだが、アンは何故か妙にモジモジしている。


「言ってください、アン。どうしたらいいのか私は正直さっぱりで」

「うん」


 促されアンはその方法を口にした。


「耳……」

「みみ……?」

「私の、耳を……んで」

「…………」


 無言の咲人チョップ。繰り返しになるがこれは暴力ではない。



 § §



「はぁ、そういうことですか」

「そうだよ、ちゃんとした魔法だよぉ~‼」


 アンがポカポカと咲人を叩く

 咲人チョップの後、抗議するアンの話をまとめるとこうだ。

 エルフは魔力を感知する能力に長けており、人間ほどの生き物なら存在を察知することが出来るが、咲人は魔力が極端に少ないので感知できない。

 そこでアンの魔力を咲人の身体へ流し込み、魔力のセンサーである耳で感知できるようにしてしまおうというのだ。

 魔力の供与には直接的な接触がある方が良いため、一般的には手首を切って傷を触れ合わせる手法がとられている。だけど、痛いのは嫌だ。だから、時間はかかるが耳をかじるというやり方で代用しよう。

 魔力を流し込み、なおかつセンサーで咲人の状態を記憶すれば、居場所と体調くらいは分かるようになる。

 また、咲人の方からアンを呼ぶことも出来るようになるはずだ。


「そのために、耳をかじる、ということですか」

「うん」


 要約するとアンと咲人の間に魔法の繋がりを結ぼうというのが彼女の提案だ。


「…………」


 手段はともかく、その効果は魅力的だ。

 今朝のナゴのようにこの世界はどこにでも危険が転がっている。

 かといって、常にアンと共に行動するのは流石にお互い窮屈きゅうくつだ。

 

「では、アン。お願いします」 

「う、うん」


 ここはじつを取るべきだ咲人は判断してアンの提案に頷いた。

 内心結構ドキドキしていることはアンには内緒だ。

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