手紙 ―えみへ―
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えみへ。お元気ですか?
最近はドタバタさせてしまっていますが、無理はしていないですか?
今日はメールではなく手紙を書いています。なんとなくでけどね。
きっと同じ内容をメールするのに、無性に手紙を送りたくなってしまいます。
本日は探索は控えめにして休息にあてています。
アンの発案です。(←ちゃんとアンと呼んでいますよ)
アンはいま、隣でお父さんが手紙を書いているのを眺めています。
お父さんはこの世界で不自由なく会話と読み書きが出来ますが、アンにはやっぱりコレは読めないようです。
アンが貴女になにか伝えたいみたいです。アンが書いたものを翻訳します。
― ここからアンが書いています ―
《………え み.……………,………….》
初めましてえみ。アンビエント・ゲイル・シャフトです。
《咲人……,…………,…………….》
咲人さんは優しいです。私をとても大事にしてくれます。
《…………,……….………….》
彼から聞いた話だけですが、貴女も私に好意的で、嬉しい。
《…,……….………………….》
でも、私は心配しています。この人とこの安心から離れてしまった貴女を。
《………,…………………….》
そう言いながら、この人を貴女に会わせてあげられなくてごめんなさい。
《………………….》
私はあまりに知らないことが多いのです。
《………,……….………………….》
なのに、一緒にいてくれるというこの人の言葉に甘えています。
《………………….》
ずっと貴女には謝るべきだと思っていました。
《…………,………,………….》
貴女が私に対して好意的であっても、いや、だからこそでしょう。
《………,……….………………….》
ごめんなさい。彼を帰還させられず、私はいまに甘えています。
《…………,………,………………….》
それとアンと呼んでくれありがとう。この響きは貴女がくれた宝物です。
― ここまでがアンのメッセージです ―
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「おおぅ……!」
咲人が唸る。現在書斎には彼一人しかいない。
――これはかなり気恥ずかしい‼
それはアンも同様なのか、彼女は手紙に文字を書きつけると早々に退散した。
「それにしても……」
喋っているときのアンと印象の異なる文面だ。
これは咲人の異世界でも読み書きが出来る能力による編集なのだろうか。
「それとも、生まれ育ち、か?」
アンはエルフの里の首長の娘だ。疎まれているとはいえ、上等な教育を受けていても不思議ではない。
「コレばっかりは分からないか。少なくとも現段階では」
考えを中断して咲人は書斎を見回す。
この手紙をえみの元へ送るためにスキャナーなどないものだろうか。
「それがなければ、デジカメで撮ってパソコンの方へ送るか」
たぶんアンはえみに伝えたい気持ちをずっと抱えていたのだろう。
それならこの手紙はどんな形であれ届けたい。二人には仲良くして欲しいと思う。
お互いに憎からずとは思っているだろうが、我慢していることがあるのも当然のことだから。
「大事ですからね……二人とも」
書き綴られた不器用で優しい想いが娘にも伝わるといいなと咲人は思った。
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