カインの恩返し②

「俺自身、明日香にどのような恩返しができるかわからないが、明日香の『友達』の1人としてこんな楽しい共同生活をさせてもらっている恩返しをさせてもらう」


 カインがそう宣言した翌日の朝、僕はキッチンから微かに香る香ばしい香りで目を覚ました。


「サーヤさん?」


「違うよ。


今日は俺だ」


 そう答えたカインの手元には使おうと思って買ったはいいが冷凍庫に入れたままで忘れていた鶏肉やもう少しで消費期限が切れる卵が置かれていた。


「一晩考えたのだが、日々の生活の恩を返すには日々の生活を手助けするのが一番だと思ってな。冷蔵庫の中にあったもうすぐ味が悪くなりそうなものを使って朝食を作ってみた」


「親子丼ですか」


「朝から重いとは思ったのだが、たまには良いだろう? ただ、俺の世界と明日夢たちの世界の味付けには差異があるはずだ。口に合えばいいのだが」


 カインは謙遜してそう言っていたが、カインの作る親子丼はにおいだけでも十分美味しいとわかった。


「ん、いいにおい。


明日香ちゃんおはよう。


明日香も起きたようだな。さあ、冷めないうちに食べてくれ。


わぁ、親子丼だ」


 目覚めたばかりの姉ちゃんの人格はいつもの魔王語も忘れて好物の親子丼を薄ぼんやりとした目で見つめていた。


「いただきます」


 この後、登校するまでに洗濯や風呂掃除を済ませておきたい僕は姉ちゃんが食べ始めるのを待たずに親子丼を口に運んだ。


「美味しい」


 味付けに差異があるとカインは言っていたが、少なくとも僕たちが実家で食べていた親子丼とは大きな味の違いは無く、朝からの丼ものだというのにサラッと平らげてしまった。


「美味しい」


 ようやく食べ始めた姉ちゃんにもその味は好評のようで姉ちゃんカインの口元は無意識に緩んでいた。


「明日夢、明日香、聞いてくれ。


何?」


「どうしました?」


「俺はこれから明日夢の負担を軽減させるためにせめて朝食くらいは作りたいと思っている。それで、明日夢にはこの家の食材を自由に使う許可を、明日香には朝食までの間だけ明日香の身体を使う権利を貰いたい」


「僕は良いけど、姉ちゃんは?」


 今は3人の身体とはいえ決定権は主人格の姉ちゃんにある。僕の負担が軽減されるとしても姉ちゃんが眠っている間に勝手に身体を使われるのは嫌だと言えばこの話は無かった事になるだろう。まぁ、今更な話ではあるのだが。


「私、いや、我もカインが供物を捧げてくれるというのならこの身体自由に使うことを許可しよう。


ありがとう。明日香」


 こうして、内野家に朝食当番が出来た。ちなみにこの後、サーヤさんが風呂掃除の当番に立候補してくれたので僕の朝の負担は一気に減った。


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