第28話 剣の道 11
◆
翌朝。
憂鬱な気分でアカネは目覚めた。
あの後、客間の用意をしてそのまま寝てしまった。
ふて寝であった。
その為にすっかりと食器の洗浄であったり、着替えであったり、あまつさえお風呂に入ることすら忘れていた。本当にそのまま寝てしまったから。
だから彼女はまずは湯浴みでもしようと、あくびをしながら風呂場へと向かった。
まだ頭が働いていない。
昨日の話について整理もついていない。
「あーもう、ごちゃごちゃだよ……」
頭をぐらんぐらんと廻しながら、風呂場の戸を開ける。
するとそこには、全裸のムサシがいた。
「……………………?」
もう一度見る。
目の前には――全裸のムサシがいた。
「い……」
腹から絞り出すような悲鳴を上げた。
「いやああああああああああああああん!」
――ムサシが。
「何でお嬢ちゃんがこんな変態なことをするのよ!?」
「……んあ?」
「まだ寝ぼけていらっしゃる!?」
全裸。
故に肌色が見える。
アカネの視点は下の方。
「ど、どこ見ているのっ!?」
「……下半身」
「嫌だわこの子、直球!」
何故か口調が女らしくなっているムサシ。何故だろうとアカネはぼーっとした頭の中で疑問に持つが、すぐに先程まで思っていた方に切り替わる。
下半身。
というよりも――脚。
彼の両脚に、アカネの意識は吸い寄せられていた。
「すごい……」
(すごい……筋肉……)
ゆったりとした履き物で隠されていたその両脚は、かなりの太さを有していた。細い両腕からは想像できないくらいの強靭な肉体。むしろこの筋力を隠すためにぶかぶかのものを穿いていたのだろうと理解出来る。きっとこれくらいじゃないと足で『聖剣』を扱うことが出来ないのだろう。
しかしそれにしても……
「立派だわ……」
「おおおおおお嬢ちゃんは知らないかもしれないけど俺のはまだこれが最大じゃないからね!?」
「……?」
顔を赤らめて謎の言葉を発するムサシに、アカネは小首を傾げる。
何を言って………………
………………
「っ!?」
ようやく頭に血が巡ってきた。
目の前の状況を理解した。
何を口にしたのかも理解した。
第三者から見たこの状況を端的に表そう。
アカネは――変態である。
「ごごごごごごごごめんないいいいいいいいい!」
彼女は頭にやかんを乗せたら沸騰しそうな勢いで赤くなりながら、風呂場から飛び出していった。
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