#31-2:絶無

全天の虚無

 最期の抵抗というわけか――。


 ジョルジュ・ベルリオーズは爆炎を吹き上げながら沈んで行くセイレーンEM-AZを、酷薄な表情で見下ろしながら呟いた。


「あらあら――」


 アトラク=ナクアがその闇の中に現れる。美しい銀髪がふわりと揺れる。


「セイレネス同士の衝突……というシナリオには沿ってもらえなかったようですけれど」

「まったくもって。これならエキドナを使った方がまだ良かったよ」


 ベルリオーズはおどけたように肩を竦めた。


「せっかく最高出力のセイレネスがぶつかってくれると思っていたのに」

「ですが」


 アトラク=ナクアは微笑みながら言う。


の孵化は確実に進むでしょう?」

「中途半端な覚醒素子デバイスにはあまり意味がないんだよ」


 そのおどけた様子のベルリオーズを、アトラク=ナクアは興味深げに見つめている。


「その割にはあまりガッカリされてらっしゃらないようですけれど」

「なに。今回の失敗の責任は、ARMIAに取ってもらうだけだし、そのためのARMIAだからね」

「あらあら――」


 アトラク=ナクアは大袈裟に空を仰いだ。全天にはただひたすらに虚無が広がっている。


「どうやってもディーヴァ級を衝突させたい、ということかしら」

「君がそう言うのなら、そうだろうね」


 ベルリオーズは相変わらず煙に巻くような言い方で返す。アトラク=ナクアは肩を竦める。


「あなたにとってもディーヴァというのは貴重なのかしら?」

「それはそうさ」


 ベルリオーズは左目を赤く輝かせながら頷いた。


「とはいえ、今回だってヴェーラとレベッカの二人の衝突コリジョンで、多くのが孵化していく。世界の軍事パワーバランスが崩れていくはずさ。それでようやく、本当のレメゲトンは顕現レヴェレイトする」

「でも今回の結果には――」


 アトラク=ナクアは赤茶の目を細めた。


「満足なんてしてない、と」

「ああ。僕が求めているのは、ソリスト以下の半端な歌姫セイレーンでも素質者ショゴスでもない。ディーヴァが地に満ちること。これが僕にとっては最高の結末なのさ」

「目的のための、ですね」

「そうさ」


 ベルリオーズは微笑する。アトラク=ナクアも微笑ほほえんだ。


「だから、次はARMIAに頑張ってもらわないとね。近々にフォーマルハウトも完成する」


 ベルリオーズの視線の先では、セイレーンEM-AZは完全に海中に没していた。何度も大きな爆発が起き、空は黒煙に覆われている。その煙を突っ切るようにして、一機の真っ赤な戦闘機が飛び去って行く。


「今度はうまくいくことを祈るよ」

「私は面白ければそれで」


 揶揄するようにアトラク=ナクアが言う。ベルリオーズは不敵に笑う。


「ならば、面白くなることを、祈ろう」

「ふふふ……」


 そして全てが闇に飲み込まれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セイレネス・ロンド/歌姫は背明の海に 一式鍵 @estzet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ