Sorry, and Thank you!

 セイレーンEM-AZとウラニアが主砲を撃ち合った。双方ともに本気の一撃だった。だが、致命弾にはならない。ほぼ無傷のまま、二度目の一斉射。しかし、それもまたお互いに弾き合って終わった。


『残念だけど、それではわたしは倒せない』

「あなたにこそ、まだ迷いがあるじゃない」


 レベッカは言い、三回目の斉射を行う。セイレーンEM-AZも同時に撃ってくる。ほぼゼロ距離射撃の応酬である。互いの火砲の爆炎が降りかかるのではないかというほどに近い距離で、お互いに必殺の一撃を交わし合う。


「っ!」


 先に被弾したのはウラニアだった。レベッカのいる艦体中核にあるコア連結室にまで衝撃が伝わってくる。中破レベルの損害を受けたのは間違いがなかった。対するセイレーンEM-AZはほとんど無傷のまま、その白銀の威容を見せつけている。


「負け、か」


 レベッカは悟る。もうどうあっても逆転劇は演じられないことを。だが、諾々と自沈することはできなかった。レベッカは散るしかなかったからだ。そしては、レベッカを殺すという大悪を為さねばならないのだ。


 続けざまに被弾したレベッカは、それでも渾身の一撃を放つ。だが、その捨て身の攻撃を受けてでさえ、ヴェーラのセイレネスにはまだ余力があった。かすり傷程度のダメージしか与えることができない。


「ヴェーラ」


 レベッカは消耗しきった精神力を総動員して、静かに呼びかけた。


「あなたと出会えたこと、一緒にいられたこと、こうして最後にお話できたこと。私はとても幸せだったと思う。大好きよ、ヴェーラ」

『ベッキー……』


 ヴェーラの悲痛な声が直接心に届く。


『わたしの我が侭な戦いセルフィッシュ・スタンドにつきあわせてしまって、ごめん』


 轟音と衝撃がウラニアを包む。爆炎が上がり、主砲が吹き飛んだ。上部構造物が軒並み崩落し、コア連結室もまた大きなダメージを受けた。


『ベッキー……』


 ヴェーラの目には、コア連結室から出てきたレベッカの姿が映っていた。レベッカは頭から血を流していた。美しい灰色の髪が赤黒く変わっていた。


 コア連結室から這い出たレベッカは、自分が致命傷を負っていることを悟った。目が霞んでいて良く見えなくなっていたし、腹部には言い表せない激痛があった。左腕は痺れてしまっていて動かせない。


 しかし、そんな状態にありながらも、セイレーンEM-AZの姿ははっきりと見えた。薄緑色に輝くその巨体は、いっそ神々しくさえ見えた。


『ベッキー。最後にきみの顔が見られて、嬉しいよ』

「わたしには見えない……けど……」

『見えるさ。わたしはいつだってきみの隣にいるから』

「……ヴェーラったら」


 レベッカは焼けた壁に寄りかかり、深く息を吐いた。


「変ね……」


 レベッカはぽつりと言う。


「最期って、もっと冷たくて寂しいものだと思っていたんだけど」

『そう……それは良かったよ。安心した』


 ヴェーラは泣いていた。その偽りのない意識の中で、ヴェーラは嗚咽を漏らしていた。


「ウラニア、一緒に、逝こう」


 レベッカはもはや息を吸うことができなかった。


「セルフィッシュ・スタンド……。身勝手な人の、良い、歌、ね……」

『ベッキー……!』


 その直後、ウラニアが大爆発を起こした。


『わたしは後悔なんてしない。躊躇ためらいもしない……!』


 ヴェーラのその声は、激しく震えていた。

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