#25:アップワード・トランスポーズ

#25-1:向かう先は。

宣告

 シミュレータルームからは、C級たちの姿が消えていた。残されたのは、次世代ディーヴァであるマリオンと、V級のレオノールの二人だった。二人は立ち上がって不安そうな視線をレベッカとマリアに向けてきた。


「ニュースを見ましたか」

「は、はい」


 マリオンが右手に持った携帯端末をしまいながら、頷いた。身を寄せ合うようにしていたレオノールも、何度か首を縦に振る。レベッカは青白い顔に厳しい表情を張り付け、淡々と述べた。


「つまり、そういうことです」

「反乱……というのは事実だと」

「そうです」


 マリオンの言葉を一瞬で肯定し、レベッカはマリオンたちのすぐそばまで近付いた。


「私たち第二艦隊は、第一艦隊グリームニルの殲滅を命じられました」

「殲滅……」


 マリオンとレオノールは同時に呟いて息を飲んだ。二人とも顔は真っ青だった。マリオンが震える声で尋ねる。


「あの、アルマは……」

「その点だけは心配いりません。パトロクロスは第七艦隊の保護下にあります」

「保護下……?」

「迎撃に向かう際にシステムに不具合が出たため、艦隊から外されました。第一艦隊は、イズーは、その後にアーシュオンの艦隊と合流しました」


 レベッカの説明は澱みがなかったが、マリオンもレオノールも今一つ納得していない様子だった。


、どうしてそんなことを」


 その問いに、レベッカはしばし黙り込む。マリアも何も語らない。たっぷり三分、だだっ広いシミュレータルームは沈黙に沈んだ。


「第二艦隊は」


 レベッカがようやく口を開く。その眼鏡のレンズ越しの深緑の瞳は、昏く揺れていた。


「ただちに出撃します」


 そして左手でドアを示す。


「もしイズーに聞く気があれば、あなたの疑問に答えてくれることでしょう」


 イザベラは遠くへ行ってしまった。彼女に会うためには、もはや自分が兵器となるほかにはない。もはや対話の時間は終わってしまったのだ。後はもう、イザベラの描いたシナリオに乗るしかないのだ。出来ることと言えば、せいぜいがその戯曲を、演者キャストの一人として、感動的に仕上げてやることくらいだった。


 イザベラの命を賭けた大舞台を完成させるためならば。


 私は――。


「レベッカ姉様」

「あ……」


 声を掛けられて我に返ると、ドアが閉まっていっている所だった。マリオンとレオノールが出て行ったのだ。


伏魔殿パンデモニウムはお任せください。姉様は……どうか」

「ええ」


 レベッカはマリアの言葉に被せるように声を発した。透き通る声が、マリアの沈んだ声を覆い消していく。


「マリア、あなたは演出家。よろしく頼みます」

「はい」


 マリアは静かに頷いた。その短い受諾応答アクセプトの中には、忸怩じくじたる思いが多分に込められていた。

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