オーダード・インターセプション

 レベッカはすぐにアキレウスの艦橋へと移動した。艦橋といっても、戦艦や空母のそれとは違い、非常にコンパクトな作りをしていた。艦橋要員は艦長を含めてわずかに十名で、その段階ですでに手狭だった。その隅に申し訳程度にマリオンの座る場所が用意されている。


「この艦には現在は何名の乗員がいるのですか、マリー」


 レベッカは傍らに立つマリオンに尋ねた。マリオンはショートの黒髪が印象的な美少女だった。漆黒と言っても良いくらいに色の深い瞳は、まるで晴れた夜空のようにキラキラとしている。表情には緊張感が満ち満ちていたが、普段は至って快活で奔放な性格である。


「現在は自分を含めて六十四名です。戦闘出撃時には百名体制になります」

「ウラニアの五分の一ですか……」


 艦橋に所狭しと並ぶ最新鋭の機器類を物珍しそうに眺めながら、レベッカは呟く。ウラニアとて新しい艦ではある。設備も超一流だ。だが、このイリアス計画の申し子たるアキレウスには、それを凌ぐほどの最先端機器が搭載されていた。


「本艦は先行試作艦という性質上、詰め込めるだけの試作兵器やシステムが装備されています。その分不安定で、メンテナンスコストがかさむ……みたいです」

「でしょうね。セイレネスのシステムをこんなサイズにすること自体無茶ですから」


 レベッカの中では、セイレネスというものを取り扱う設備というのは、恐ろしく大きいものだという認識があった。長年それに親しんできただけあって、いきなりこれだけ小型化ミニマイズされた物を目の前に出されても、にわかには性能を信じ難い。


「それはそうと、マリー。十日間の訓練で、だいぶモノにはできましたか?」

「ど、どうでしょうか……。課題は全てクリアしたはずですけど……」

「そうでしたね」


 レベッカは頷く。


「シミュレータから実機に乗り換えても、あなたはほとんどその差異を感じさせないほどでした。しかし、命を賭ける戦いとなると、また全く別物になります。特にセイレネスでは嘘をつけない。迷えば迷いがセイレネスに反映されます。揺らぎます。だから迷うことも躊躇うことも許されません」

「き、肝に銘じます」


 傍から見てると思わず笑ってしまう程に、マリオンは緊張していた。だが、レベッカはそれに少し困惑している。そこまで緊張しなくても良いのに、という思いである。だが、それについて「なぜ」を問うのも野暮かと思い、レベッカは話題を変える。


「ところで、アントネスク上級少尉との関係は良好ですか?」

「あ、はい。アルマとは喧嘩もしますけど、概ね良好です」

「そうですか」

 

 レベッカは満足そうに頷く。


「絶対にだけはしないように。私たちのセイレネスでの戦いは、少なからず心にダメージを受けます。だから、お互いがうんざりするほどに、その想いは分かち合ってください」


 その言葉に、マリオンは半ばキョトンとしながらも頷く。


「私たちはこの存在そのものが大量破壊兵器なのですよ、マリー。実戦を経験すれば、その意味も分かるようになるでしょう。望む望まざるとにかかわらず、私たちは石と棍棒で武装した程度の人々を、戦車で踏み潰すようなことをしているのですから」

「大量破壊兵器……」

「そうです。アーシュオンの民間人を何百万と殺したことすらある。大量破壊兵器であると言わずして何と言いますか」

「しかしそれは命令で……」

「そうです」


 レベッカは頷いた。


「しかし、何であったとしても、私たちは人々を殺すとき、その顔も、記憶も、恐怖も、悲しみも、つぶさに目にすることになります。生半可な精神力で耐えられるものではありません。士官学校では教えていないと思いますが」

「はい、初耳です……」


 マリオンは明らかに委縮していた。レベッカは「しまった」という表情を浮かべ、話題を変えようとした。その時、レベッカの携帯端末が不愛想に緊急入電を報せる。


「……わかりました。ただちに邀撃に向かいます」


 わずか数秒の会話だったが、その瞬間に艦橋要員たちは動き始めた。レベッカは艦長に向かって、エディタの呼び出しを要請する。


『お待たせしました。今、私の方にもカワセ大佐から連絡がありました』

「さすがマリアね。いつもの挑発行動だと思いますが、彼らは我々がここにいることをキャッチできていなかったようですね。現地に急行して一撃します。それで敵方が退却するならそれでよし、です」

『承知致しました。では、射程外攻撃アウトレンジを徹底させます』

「そうしてください。こちらは半数が新人です。まずはこの子たちに実戦を経験させ、かつ五体満足で帰還させることを最優先とします」


 レベッカはマリオンの方を見ながらそう言った。エディタはすぐにその言葉の意図を理解し、メインモニタの中で頷いた。


『状況開始は恐らく夜明けの頃になると思います。各艦の艦長には状況を報せますが、新人たちへの周知は七時間後に行いたいと思います。よろしいですか?』

「お任せします、エディタ。あなたの判断を信頼しています」

『恐縮です、司令官』

「ああ、それと」


 レベッカは腕を組んだ。長い灰色の髪がさらりと後ろに流れる。


超兵器オーパーツに関しては確実に早期殲滅するように。今回は、私も出ます」


 レベッカのその威風堂々たる佇まいを間近で見ているマリオンは、得体の知れない興奮に少し震えていた。この時すでに、マリオンの中にはが鳴り響き始めていた。

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