#10:決意と秘密
#10-1:ねじれる世界
年の瀬、その報せは。
二〇九五年も間もなく終わる。レベッカは未だ慣れない新居の窓から、しんしんと雪の降る様子を眺めている。年末の予定もすべて片付いており、もう年が明けるまですることもない。戦争中であるにもかかわらず、人々は年末年始に浮かれている。もう何十年も「幸せな一年」なんて来ていないというのに、それでも「ハッピー・ニュー・イヤー」を掲げている。人々は驚くほど画一的に、年末年始を満喫しているように見えた。
「うんざりする……」
レベッカは呟く。
「本当に、うんざりする」
自分は誰のために戦っているのか。誰のためにこの手を汚し、誰のために傷付いているのか。今、この国から自分が消えたら、この国はもう立ち行かないだろう。今ですらギリギリの状態なのだ。エディタや、S級のレニーがいることを考えても、やはり自分の代わりになれる者はいない。しかし、国家・国民は、全ての歌姫にヴェーラや自分の力を期待するだろう。
「昨日の記事の事ですか、姉様」
後ろから聞こえたマリアの声に、レベッカは振り返る。ソファに座っているマリアは、携帯端末でニュースサイトを眺めていた。
「冷酷な指揮官、レベッカ・アーメリング。過日の大損害は、艦隊司令官が新人を見捨てた結果だった――だったかしら?」
「全く正確ですね」
マリアは肩を竦めた。レベッカは小さく笑う。
「あんな三流記事、どうだっていいわ。査問会の方は問題だけど。まさか、彼らまで、三流の考えを貫いてくるとは思わなかったわ」
「すみません、私の力が及ばず……」
「いいのよ。あのお歴々は、聞く耳なんて持たないでしょうから。クロフォード提督不在のところで査問会を開催するというところに、彼らの
レベッカは吐き捨てるように言うと、マリアの
「彼らは国を守ろうとしているわけではないわ。彼らは自分の地位を守りたいだけなのよ。だから、戦争は終わらない。負けもしない。勝ちもしない」
「手を引く者がいるのかもしれませんよ」
マリアは意味深に言う。レベッカは流れるように腕を組む。
「ヴァラスキャルヴ陰謀論――か」
「そもそも、今や世界のあらゆるモノがジークフリートに支配されているのです。ヴァラスキャルヴがすべてに関与していたところで、何らおかしなことはありません」
言葉を選びながら、マリアは言った。その黒い瞳は、レベッカの表情をくまなく観察していた。レベッカはマリアの視線を受け止めつつ、「そうね」と小さく頷く。
「そもそも、歌姫計画にしても、あのジョルジュ・ベルリオーズが噛んでいるじゃない? だから悪魔が出てきたって驚きはしないわ」
「悪魔、ですか」
マリアは静かに息を吐く。その時、テーブルの上に置かれていたマリアの携帯端末が、無機的な電子音で着信を伝えた。表示によれば、発信者はハーディであった。
『そちらにアーメリング提督はいらっしゃいますか』
「ええ。用件は?」
『グリエール提督が意識を取り戻しました』
「なんですって!?」
思わず大きな声を出すマリア。心臓が早鐘のように脈打っていた。
『すでに車は手配済みです。至急準備を』
「わかりました。良い仕事です」
マリアはそう言って回線を切り、レベッカに早口で状況を伝えた。
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