二人の語らい

 なし崩し的にマリアを加えた三人は、当たり障りのない話題を面白おかしく広げて話し、食事を進めていった。途中でヴェーラがピザを追加注文したり、レベッカがワインに口をつけてグラス半分で酔い潰れたりしたが、その夜は概ね平和に過ぎて行く。


 ヴェーラとマリアがハーディの物真似をし合って笑い転げる中、レベッカはあられもない格好でソファに沈んでいる。時々ケラケラと笑うことから、完全には眠ってはいないようだったが、もはやコミュニケーションは不可能だった。


「おふたりさん、楽しそうなのら……!」


 突如そんなことを大声で言ったレベッカに「ビクッ」となりつつ、ヴェーラはその美しい髪をかきあげた。


「そうなるってわかってたのに、どうして飲むかなぁ……」

「ヴェーラ姉様も止めなかったじゃないですか」

「ふたりらけれ高いワイン飲むとかないわー!」


 そう叫んでまた寝息を立て始めるレベッカである。何故か寝ながらブラウスを脱ぎ捨てているのだから、器用なものである。ヴェーラは「やれやれ」とやや楽しそうに呟きつつ、レベッカの上半身に自分の上着をかけてやった。


「レベッカ姉様、お酒に弱いんですね」

「ある意味最強。明日の朝にはケロっとしてるだろうし、その上なーんにも覚えてないからね」

「まぁ……!」


 ヴェーラはワインの最後の一滴までをグラスに落とし、軽く掲げてから飲み干した。マリアはすでにブランデーに移行している。アルコールに強いヴェーラから見ても、マリアはザル……いや、リングだった。水のようにブランデーを飲んでいる。その割に顔色一つ変わらないし、酔っている様子もなかった。


 二人はいつの間にかソファで隣り合って座っていた。時計を見遣ればすでに午後十一時を回っていた。マリアはやや慌てた様子で立ち上がったが、その手をヴェーラは掴み、強引に座りなおさせた。


「姉様?」

「明日、何かあったっけ?」

「いえ、私は休みですが……」

「じゃぁ、泊っていきなよ」


 ヴェーラはウィスキーのボトルを持ち上げつつ、片目を瞑った。


「わたしも何もなければ明日は休みなんだ。君とはそろそろちゃんと話をしたいと思ってた。ずっとすれ違ってたからさ。君も軍の雑務にはそろそろ慣れただろ?」

「そうですね。あっという間の半年でしたね」


 マリアはブランデーを飲み干し、小さく息を吐く。


「その間に、君は広報活動まで押し付けられたってわけだよね」

「本当は間接的に関与……という契約だったのですが、いつの間にか全権渡されてしまっています」


 マリアは「うんざりだ」と言った表情を露骨に浮かべた。それを見たヴェーラが、喉の奥で笑う。


「まるでマネージャだよ。鬼のようにスケジュール入れてくるしね」

「私だって姉様方にはお休み頂きたいのです。ですが」

「いいのいいの、いいんだよ、それは」


 ヴェーラは左腕でマリアの肩を抱く。


「わたしたちのための設備維持費もあるし、何しろあの戦艦のコストも回収しなきゃ。税金やらなにやらだと反発されるけど、わたしたち自身の営業活動でお金を集められれば、その辺もまぁクリアできるよね。雀の涙だろうけどさ」

「数曲歌っていただければ、それだけで数千万から数億UCユニオンキャッシュの売り上げになります。メンテナンス費用程度にはなるかと」

「真面目だねぇ、君は」


 ヴェーラは笑いながらウィスキーの入ったグラスを揺らす。琥珀色の液体が天井灯を受けてゆらゆらと輝いた。


「なんでわたしたちを苦しめるものを維持するために、わたしたちが走り回ってるのか。考えれば考えるほど滑稽っていうかお人よしっていうか」

「すみません……」

「マリアが謝ることじゃないよ。まぁ、いいんだよ、仕方ないから。アーシュオンの繰り出してくる馬鹿げた戦略をぶっつぶせるのは、目下の所わたしたちしかいないんだしね」


 ヴェーラは自嘲気味に笑い、溜息を一つ吐いた。そこで「あっ」と声を上げる。


「やばい、忘れてた。作れって言われてなかったっけ!?」

「え、はい。今月中――」

「明後日かよ!」


 ヴェーラは慌ててグラスを置いて、自身の携帯端末を取り出した。スケジューラを見ると、確かに二日後に締め切りが設定されている案件が一つあった。


「あーあーあ……どうしよう」

「まさか、未着手ですか」


 マリアの目が一気に剣呑になる。ヴェーラは「あははは」と乾いた笑いで誤魔化そうとする。


「いや、ほら、あのさ、カ、カティにも相談したかったなーとか思ってたら忘れちゃってて」

「電話とかはなさらなかったんですか、姉様」

「いや、ほら、こういうのって、対面じゃないと上手いことできなくて」


 わたわたと動揺を隠さないヴェーラに、マリアは眉尻を下げて、わざとらしく肩を竦めた。


「いつもはどうやって作っているのですか?」

「ええと、大抵はベッキーと二人で作ってるかな。たまにカティにチェックしてもらうけど」

「メラルティン中佐がチェック……ですか?」


 意外そうにマリアが訊くと、ヴェーラは誇らしげに胸を張った。


「うん。カティはすごくたくさん歌を知ってるから」

「そうなんですか」


 マリアは目を丸くする。そして「ああ」と手を打った。


「もしよければ、私と考えてみませんか?」

「マリアと?」

「助けになるかどうかは私にもわかりませんけどね」


 マリアは冗談めかしてそう言った。ヴェーラはしばし腕を組んで点いてないテレビを見つめていたが、やがて破顔した。


「オーケー、やってみよう。面白いものができるかもしれないからね」


 ヴェーラは鼻歌を歌いながら、テーブルの上に放置されていたタブレット型の電子メモパッドを引き寄せた。


 そして二人は夜通し、諤々がくがくたる議論を交わしつつ、唸り通したのだった。

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