ディーヴァとの対面

 それから十数分間、四人は結果として腹を割った会話をすることになった。何せ、。必然、それぞれの本音が本人の意図を無視する形で発されることとなり、一触即発の事態になったりもした。だが、そういう場を収めたのはほぼ全てトリーネで、それには彼女の表裏のない性格が非常に役立ったと言えるだろう。


「なかなか、疲れるものだな」


 天蓋が開いてもしばらくの間、エディタはその場から動けなかった。何時間も集中してレポートを書いた後のような、そんな倦怠感が全身を支配している。だが、その微睡まどろみにも似た時間は、ブルクハルトのノックによって中断される。


「ごめんごめん。疲れてるとは思うんだけど、調整があるからさ、出てほしいんだよね」

「あっ、も、申し訳ありません」


 エディタは弾かれたように立ち上がり、大急ぎで外に出た。他の三人もそれに合わせたかのように筐体から這い出てきている。


「なかなか、有意義な時間だったな」


 エディタは三人を見渡してそう言った。クララは肩を竦め、テレサは少し不機嫌そうな表情を見せ、トリーネは何故かニコニコしていた。エディタはどこか仏頂面だ。クララは首を振り、そしてテレサを見る。


「セイレネスの中で喧嘩すると際限がないね」

「何よ、私が悪いみたいな目してるわね」

「君が悪いんじゃないか。第一、僕は――」

「はーい、ストップストップ」


 トリーネが両手をパンパンと打ち鳴らす。


「あたしたちはみんな違うのよ。多様性は大事なものよ。尊重し合わなきゃ」

「トリーネの言う通りだ」


 エディタは頷きながら言う。


「それに私たちの戦争へのスタンスは、それぞれに違う。動機だってね。でも、目的は一つだろう? ディーヴァのお二人を助け支えられるようになること。違うか?」

「それは、そうだけど」


 クララは人差し指で頭を掻いた。テレサは鼻息を吐きつつも「そうね」と同意した。エディタは幾分満足げに頷いた。


「それさえ明確で、それさえブレなければ、個々のベクトルの違いなんて瑣末さまつな問題だと私は思う」

「それはありがたいな」


 モニタルームのドアが開くなり聞こえてきたその声に、エディタたちは一様に緊張した。彼女たちにしてみれば雲上の人の声そのものだったからだ。四人は一斉にモニタルームの方へ身体ごと向き直り、敬礼をした。


 そこに立っていたのは二人の絶世の美女――ヴェーラとレベッカ――だった。


「やぁ、本日付けで准将になったヴェーラ・グリエールだよ。初めましてだね」

「同じく准将一日目のレベッカ・アーメリングよ。こんばんは」


 真新しい軍服姿の二人は、エディタたちの近くまでやってきた。エディタたちにしてみれば、彼女らが小学生の頃から憧れていた人物である。准将という階級もまた、到底手の届かないところにあるのだが、今のエディタたちにとっては階級など些細な問題だった。


「本来ならかしこまった場で発表するべきなんだろうけどさ、面倒だからここで言うよ」


 ヴェーラは長く美しい白金の髪プラチナブロンドを後ろにやりながら、気さくな口調で言った。


「本日付で、第一艦隊と第二艦隊が再編されたよ」

「第一艦隊グリームニルはヴェーラの、第二艦隊グルヴェイグは私の艦隊になります」


 レベッカが眼鏡を胸ポケットにしまいながら言った。ヴェーラが微妙な表情を浮かべて補足する。


「とはいえ、しばらくはそれぞれ戦艦一隻だけの艦隊なんだけどね」

「それは将来的には私たちの……?」

「ある意味ではそうだね、エディタ」


 ヴェーラは頷く。エディタたちの名前については、モニタルーム内で確認を済ませていたのだろう。クエスチョンマークを飛ばす四名の候補生を見ながら、ヴェーラはほんのりと口角を上げた。


「さっそくだけど、君たちの所属を発表するよ」

「所属……ですか? 自分たちはまだ正式には――」


 エディタが首を傾げる。ヴェーラはうんうんと頷く。


「特例措置だよ。実地訓練のためには所属が決まってないとやりにくくてね」

「実地訓練、ですか」

「うん。実地訓練。セイレネスは講義やらでどうにかなるものじゃないんだ。だから、早期に実戦を体験してもらうことになるよ。今のうちに言っておくけど、実戦はものすごくハードだよ」


 ヴェーラは少し芝居がかった仕草をしつつそう言った。隣に立つレベッカは、額に手を当てて目を閉じている。


「というわけで、わたしの艦隊には、クララとテレサに入ってもらう」

「エディタとトリーネは第二艦隊です」


 これは正式な通達だからね、とヴェーラが念を押す。四人の候補生は頷いた。その時、ヴェーラが少しよろめいた。


「っとと……」

「ヴェーラ!」

「だいじょうぶだいじょうぶ。ちょっと貧血かも」


 ヴェーラは胸のあたりを掌で叩きつつ微笑した。その微笑は儚く美しい。その得も言われぬたたずまいに、エディタは思わず見惚れてしまう。ネットやテレビで見た時以上に、ヴェーラ・グリエールという人物には威厳があった。たぐいまれな美貌もそうだが、纏っている空気が圧倒的に違うのだ。太陽のように苛烈な輝きがそこにあった。


 だがエディタたちは気付いていない。


 ヴェーラの微笑みは薬での安定によって作られている事実に。その鮮烈な輝きは、きわめて危うい均衡の上で成立しているのだという事実に。

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