#02:歌姫養成科設立

#02-1:ヴォーカリスト級

四人のヴォーカリスト

 ハーディとヴェーラたちの間の溝は埋まることなく、それどころか急速に広がってきていた。セイレネスが運用管理されているのが奇跡的とも言える状態――ハーディ自身はそう認識していた。


 もっとも、軍上層部としては本人たちの間の軋轢などどうでも良い。滞りなくアーシュオンの戦力を漸減ぜんげんし続けられれば、それで良かったし、実際にヴェーラたちは想定以上の、ありていに言えばを見せていた。


 そんな厭世的で定型マンネリ化した日常は、当事者たちの精神をすり減らしながら、瞬く間に時間を進めていく。


 そして、二〇九二年十月――中央士官学校に歌姫養成科が設立された。


「あなたたちは、V級です」


 ハーディは教室の最前列に座らされている四名の少女に、自己紹介の後でいきなりそう告げた。入学式の翌日、未だ右も左もわからぬ状態の少女たちにとっては、まったくもって意味不明な発言だった。


「技術本部は、歌姫セイレーンの能力をランク分けしました。あなたたち四名は、上から三番目、すなわちヴォーカリスト級。あなた方以外は、全て四番目、つまり最下位のC級、クワイア級として認定されています」


 なお、一番上のクラスはDディーヴァ級、二番目はソリスト級と区分された。D級にはヴェーラ・グリエールとレベッカ・アーメリングがいる。S級は該当者なしであった。


「上から三番目と言っても、事実上はトップクラスです。技術本部の予測では、今年はV級の出現は見込まれていませんでした。どういった予測なのかは私にも開示されていませんが、ともかくも軍としては嬉しい誤算があったということです。巡洋艦級を配備するための予算も現在すでに審議中です」

「巡洋艦……!?」


 四人の中で一際目を引く容姿の少女――エディタ・レスコという――が思わず声を上げた。セミロングの白金髪プラチナブロンドを自然に流した、藍色の瞳と透き通るような肌の持ち主だった。やや釣り目気味で全体にシャープな印象を持っている知的な美少女である。ヤーグベルテの北部出身者特有の高身長と白皙の肌によってもたらされる印象は、どこかカティにも似ていた。


「中佐殿、よろしいですか」

「巡洋艦級の話ですか」

「はい」

「V級というのは、それだけの戦力になるという事が確定しているからです。予算枠にねじ込むのも道理、というわけです。駆逐艦級では、あなたがたの能力を発揮しきるだけのシステムを搭載することは不可能。それゆえに無駄なく能力を発揮するためには、巡洋艦級が必要になった……そういう話です」


 ほぼ一息に平坦なトーンで説明したハーディは、四名の少女を順に見回した。技術本部による分析の結果、四名の能力差は明確になっている。それによると、エディタ・レスコが圧倒的に強力な能力を有している。次はトリーネ・ヴィーケネス。エディタほどではないにしても、向こう何年間かは稀有な人材に該当することは間違いなさそうだった。クララ・リカーリとテレサ・ファルナはほぼ同じ程度で、ぎりぎりV級認定されたというレベルだ。だが、それでも強力な戦力になり得ることは間違いがない。


「あなたがた用のセイレネス・シミュレータも現在建造中。遠隔ではありますが、半年後には実戦に投入できるようになります」

「実戦……ですか!?」


 短い黒髪に灰色の瞳の少女――トリーネが声を上げる。おっとりとした容姿に似合わぬ、硬い声音だった。ハーディは事も無げに点頭した。


「前線のサポートという形になりますが、V級各人は、一個の戦力として計上されることが決定しています。無論、実戦ですから危険は伴います」

「その、シミュレータというのは?」


 エディタが真剣な面持ちでハーディを見る。


「シミュレータについては、後日、技術本部のブルクハルト中佐から説明があります。我が国には、彼以上にセイレネスについて詳しい者はいません。詳しくは彼に訊いてください」


 ハーディはそう言うと、話を打ち切ろうとした。が、エディタが再び手を挙げる。


ディーヴァ級のお二人にはお会いできないのでしょうか」

「ふむ」


 ハーディは頭の中で言葉を選ぶ。


「二人は連日の戦闘で、今現在いささか調子が悪い。すまないが、二人に会えるのはまだ先です」

「それだけ歌姫セイレーンには出撃の機会があるということなのですね」

「そういうことです。メディアで公表されているのはほんの一部の戦闘に過ぎません。セイレネス運用責任者である私の目から見ても、二人は明らかに過労状態にあります」


 ハーディは未だ緊張が解けない面持の四人を見回し、ひとつ頷いた。


「あなたたちには期待しています。一日も早く、ディーヴァ級の二名をサポートできるようになっていただきたいと思います。訓練等、過酷なものになりますが、あなたたちの能力は国家の財産です。ゆめゆめ無駄にすることのないように、励んでください」


 ハーディはそう言うと、靴音も高く部屋を出て行った。

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