■五月二十七日(水) 夏凛 2

「で、何で林田がくっついてくるんだよ」


 栄美がなおみに電話してから実に三十分後、車が山麓園に入ってきた。


「西尾さんが吉田さんって人と話しつけてくれたって言ってた」


 助手席から降りてきた隼人が、当たり前のように言う。


 その車をまじまじと見て、夏凛は顔をしかめた。横で栄美も、驚いたような表情になっている。


 派手な紫色の大きなワゴン車。運転席の窓は暗くしてあるが、白いふさふさが見える。明らかにヤンキーの車だ。


 次いでスライドドアが開いて、まず日下部なおみ、続いて西尾潤が降りてきた。


「話し合った結果、部屋あいてるから、少なくとも今日から金曜の夕方までは、男部屋に俺たちも泊まることにした。これならなおみが迷惑かけても止められるし」


「あたし迷惑かけないよ! ちゃんとDVDの録画予約してきたからアニメ見られなくてもキレないし!」


「そんなことでキレてんのかよ。小学生かよおまえは」


「うるさいな。惚れっぽくてフラれてばっかりいる隼人に言われたくないよ!」


「まあまあ、外で騒がないで」


 隼人の母親が運転席から出てきた。相変わらず金髪を後ろにひとつで束ねて、派手な色の服を着ている。


「吉田さん、まだいる?」


「うん」


 夏凛が頷くと、隼人の母親は夏凛に笑いかけ、子どもたちを先導して施設に入って行った。


 隼人の言通り、話はついていたらしい。母親は三人分の二泊三日料金を払って、「まだ仕事残ってるのー」と言ってバタバタと帰って行った。


「林田の母ちゃん、まだ仕事? あの保育園?」


 夏凛が訊くと、隼人が頷いた。


「ああ、意外といそがしいんだ」


「だろうね。クローゼットに子供用の布団がいくつか仕舞ってあったし、けっこう遅い時間まで対応してるんだなって思ってた」


「よく見てるね」


 隼人の後ろで、潤が目を丸くする。


「まあ、小さい子が多いから、どうなってるかなって思って」


 ぼそぼそと夏凛が答えると、潤が満面の笑みを浮かべた。


「皆川さんって一見いかついけど、本当は優しいよね」


「一見だっていかつくないし! 本当も別に優しくないし! 誰だよ、それ!!」


 思わず夏凛が突っ込むと、おかしそうに潤が笑った。


「いや、面白い子だよね。うちの小中学校にはいないタイプだったな」


 そんな話をしながら、集会室にもなっている食堂に入って行った。


「とりあえず宿題はここでやって。時間があるなら、この子らに勉強教えてやって」


 夏凛は言いながら、三人に食堂の一角、空いている席を示す。


「はーい、あたし宿題まだだからやるね」


「……おまえまたゲームやってただろ」


 素直にその一角に向かったなおみに、隼人が声をかける。


「うるさいなー。しょうがないでしょ、やりたかったんだから」


「サルか、おまえは」


「今から宿題やるもん。まだ時間あるもん」


 なおみは文句を言いながら席に座った。隼人と潤が少し離れた腰を下ろす。


「なんかごめんね」


 栄美がなおみに声をかける。


「ううん、全然。呼んでくれてうれしかったよ。……あいつら、てか隼人、性格悪くていつもあんなだから気にしないで……あっ」


 なおみが「まずい」というような顔になる。栄美がきょとんと首を傾げる。


 そのやりとりを見て、思わず夏凛は吹き出した。


 結局その日は、消灯時刻まで、隼人や潤が子どもたちに勉強を教えていた。

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