■五月二十一日(木) 橘

「なあ、先生。俺、本当にやってないんだよ。なのに検察のオッサンも裁判官のオッサンも全然俺の言うこと信じてくれない。しかも夏凛も望も面会に来てくれないし!」


 橘の顔を見た途端、博之は半泣きで言い募った。

 橘は苦笑いする。確かに全員の話に共通するように、素直な子ではある。


「まず夏凛ちゃんと望くんが面会に来ないのは、きみが接見禁止になってるから。来ても会えないから、来ないようにぼくの方から言ったんだ」


「せっけん……?」


 博之がきょとんとした顔になる。橘はひらひらと手を振る。


「ああ、面会禁止ってことだよ。他の人に証拠隠しを頼んだら困るって思われてるんだ。さみしいだろうが、ガマンしてくれ」


 橘が噛み砕いて説明すると、ようやく博之は納得した表情になった。


「じゃあ夏凛や望が俺のこと見捨てたわけじゃないんだな」


「もちろんだよ。……今日は、望くんが洋服をみつくろってくれたのを差し入れる。洗濯も、望くんがしてくれるって」


「助かったー! 無事に出れたら望におごらなきゃな!」


「無事に出られるようにがんばろうな」


 橘の言葉に、博之はうんうんと何度も頷く。

 それを見て、橘は言葉を続けた。


「本当にやってないんだったら、刑事に何を言われても、絶対に認めたらダメ。それは判るね? もし万が一考えが変わったら、刑事に言う前にぼくに言ってほしい。約束してもらえる?」


 橘の言葉に、博之は目の涙を拭って頷いた。


「もちろんだよ。俺やってねえし! 美佐殺す理由もないし!」


「夏凛ちゃんに至っては、ぼくに払う弁護料金って名目で、西尾の事務所でバイトしてるよ。きみがちゃんと出てきてぼくに払ってくれれば、そのお金は夏凛ちゃんに戻るから、そのつもりで」


「えっ、マジ!?」


 博之は大きな声を出した。


「夏凛そこまでしてくれてるんだ! 妹分に金出させるわけにはいかない、俺絶対出て、夏凛に金返す!!」


「じゃあちゃんと無罪でここ出て、ぼくの弁護料を払ってくれよ」


 橘の言葉に、博之は何度も大きく頷いた。

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