第21話 思い出はワルツの中で

「お兄様、エスターニア様、お手間を取らせて申し訳ございませんでした。」

イリア様が出ていき、静まり返った部屋内で、私はご迷惑をかけてしまったお二人に誤りました。


「アリスさん怪我はないのね?」

エスターニア様が心配そうなお顔で、私に寄り添ってくださいます。


「はい、大丈夫です。」

「そう、まずはゆっくりするといいわ、リア皆さんにお茶の用意を。」

「かしこまりました。」

奥に控えてくださっていたリリアナさんがお茶の用意をしてくださいます。


「ありがとうございます。あのジークさん、汚れたお洋服を見せて頂いてよろしいでしょうか?」

いつまでも汚れたままのお洋服では申し訳ありませんから、先に汚れを落とさないといけませんよね。


「ん?まぁ、これぐらい大丈夫だよ」

「そういうわけにいきません。少しお待ちください。」

私はリリアナさんのところへ行き、お水を少しいただいてきます。


「すみません、失礼します。」

汚れてしまったお洋服にお水を少しずつ濡らしていき「お願い、精霊さん」

両手をかざし水と風と大気の精霊さんにお願いをします。


「えっ、これは言霊ですの?」

エスターニア様も初めて見られたのか少し驚かれています。


「いや、アリスは言霊は使えないんだ。」

「それでは今何が起こっていますの?」

「アリスはただ、精霊に『お願い』しているだけだよ。」

「!」

先ほどより驚かれているみたいですが、言霊が使えない私はお姉様や巫女の方々には遠く及びませんよ?


「すげぇ、汚れが全部きれいに消えてるぞ。」

アストリアさんが私の汚れ落としの技術をほめてくださいます。


「どうでしょうかジークさん。」

「ありがとう、まったく汚れの後がないよ。」

汚れのあとを確認されています。


「ジーク、アストリア。」

「「はい、分かっております。」」


「エスターニア、リリアナもいいね。」

「ええ、大丈夫よ。」

「はい、分かりました。」

お兄様はこの部屋にいる私とミリィ以外にお声を掛けて、何かを確認されておられますが、いったい何をされているんでしょうか?


「皆様、お茶のご用意が整いました。」

タイミングを見てリリアナさんが皆さんをソファーの方へご案内してくださいます。


「ありがとうございますリリアナさん。」

「あなたがリリアナさんね、はじめましてミリアリアよ、アリスがいつもお世話になっているわね。」

ミリィにはいつも学園の話はしていますから、リリアナさんの事も詳しいんですよ。


「私のような者にご丁寧にありがとうございます。エスターニア様の侍女をしておりますリリアナと申します。こちらこそアリス様にはおせわになっておりますので。」

「ふふ。これからもアリスをよろしね。」

「はい、アリスさんはお友達ですから。」

お互い純粋な笑顔で語り合っておられます。

ミリィはリリアナさんと気が合うと思ってはいたんだけれど、すでにこの短時間で分かり合えてる感じがしますよ。


そのあと嫌がるリリアナさんを、エスターニア様が無理やり引きずり込んで、ささやかな休憩と言う名のお茶会をしました。




「それじゃジーク、アストリア、悪いが明日放課後にもう一度ここに来てくれるか、それまでに資料を集めておくよ。」

「「畏まりました。」」


ひとまず連れ去り未遂事件の詳細を説明し、ジークさんとアストリアさんは明日犯人さんを確認する事で話がまとまりました。

そして私達は再びパーティー会場へ戻ってきたのです。


「ジークさん、アストリアさん本当にありがとうございました。」

「まったくよ、これで助けられたのは2度目ね」

「2度目?」

ミリィが何気なく言った2度目って言葉が気になったんですが、ミリィも以前お世話になったんでしょうか?


「やっぱり覚えてないわね、前にお城を抜け出してアリスが迷子になった事があるでしょ?」

「あれはミリィが考えもなしにどんどん先に進んだからじゃない。」ぷんぷん

「いいのよそんな事、その時二人の男の子に助けてもらったでしょ?」

「うん、ってそうなの?」


「さっき言ってただろ、知ってる子だって。」

そういえばアストリアさんが言ってましたね、あれは私を助けてくださる口実だと思ってました。


「私はまた助けていただいたんですね。何かお礼をしないと。」

「そうね、今回は二人がいなかったらと思うとぞっとしないわ。」


「それじゃ王女様、俺と踊っていただける栄誉をいただけますか?」

アストリアさんがミリィを誘っています。ミリィも案外嫌そうでもないみたいですね。


「ふふ、光栄に思いなさい。ジーク、アリスをお願いね。」

そう言ってダンスを踊られている方へエスコートされていきました。

やっぱり美男美女は絵になりますねぇ。


「プリンセス、私にもご一緒に踊れる栄誉をいただけますか?」

ジークさんも紳士のごとく私を誘ってくださいます。

私も笑顔で「えぇ、喜んで。」

ジークさんが差し出してくださった手にを握り、優しくエスコートしてくださいます。


そういえばあの時も、泣いている私の手をジークさんが握ってくださいました。

「昔と比べて大きくなったんですね。」

「ん?」

「ふふ、なんでもございませんわ。」


隣ではミリィとアストリアさんが笑顔で踊っていらっしゃいます。

私もジークさんと一緒に流れるワルツに身を流していきます。


こういうのも、たまにはいいですね。

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