第39話 4人目の戦士



 パープルボア。暁の騎士団の問題児。仲間内で度々問題行動を起こし、対立する。リーダーホワイトフィンチに窘められ、イエローヘアに嫌味を言われ、レッドドッグと度々ケンカになる。そんな彼が最大のヘマをやらかすのが、騎士団の大切な旗を敵に奪われてしまう事件だ。


 一人で解決しようとしたパープルボアに、気付いたレッドドッグが駆けつける。そして、それ以来、パープルボアはレッドドッグとライバルであり、無二の親友にもなる―――。


 ぼくとしては、暁の騎士団のツンデレキャラだ。


 まさか、そのパープルボアが……。


「さっぱり、理解できねー」


 赤間が顔を顰めてそう呟く。蛟ちゃんが顔を赤くして、両腕をぶんぶん振りながら「何でよっ!」と力説し始めた。


「あるでしょ! 良く! 異世界転生とかっ! マジ転とか、綺羅星とかっ!」


 聞き覚えのある単語に、ぼくの耳が反応する。


「お前の姉貴、オタクか」


「腐女子ってやつ……らしい」


 大蛇が溜め息を吐く。見た目ヤンキーなのに、腐女子とは業が深いな。マジ転は「マジで転生!? 5秒でレベルアップする俺は世界最強!」の事で、綺羅星は「異世界は流れる綺羅星とともに」の事だ。どちらも、主人公のライバルキャラがイケメンなので女子に人気が高い。転生系に詳しいなら、理解が早かったのは理解できるけど、オタクならそのノートに触れないで欲しいって事も解ってると思う。


「確かに、類似する事件が起きていたようだが―――」


 黒江も半信半疑だ。ぼくも、正直自分の描いたノートの事なので、なんとも言い難い。それじゃまるでぼくが、「明日、突然女子に告白される」って書いたら、その通りになるみたいじゃないか。……書いておこうかな。


「間違いないよ! こんな偶然、あるわけないじゃない。あたしってば選ばれた戦士だったのよ!」


「―――なんか、スマン」


 姉の叫びに、大蛇はガックリと肩を落として謝った。大蛇はオタクではないらしい。他のマッドライダーズのメンバーたちも、苦笑いだ。


「やっぱ久遠、お前が―――」


 赤間がぼくの方を見て、何か言いかけた時だった。ガタン! と、倉庫内に大きな音が響き渡る。倉庫の中にあった設備を、誰かが倒したようだ。


「誰だっ!」


 屋城の叫びに、マッドライダーズたちが一気に音の方へ駆け出した。赤間と黒江も目を見合わせて走り出す。


「えっ、えっ……。ぼ、ぼくもっ!」


 ぼくも遅れてついて行く。倉庫の入り口めがけて、誰かが逃げようと飛び出すのを、スタジャンくんが飛び付いて押し倒した。倒れた拍子に、捕まえた人物からスマートフォンが落ちて地面を滑るように転がっていく。


「何もんだ!」


「スパイか!?」


 マッドライダーズたちが怒声を上げて、地面に倒れた人物の胸倉を掴む。倒れた人物は、男のようだった。マッドライダーズの一人が男のシャツを掴んで引き起こす。男の顔から、メガネがずれていた。男は慌てて、「ちがっ」と叫ぶ。


「あれ?」


 ぼくは男の腹に、靴跡が付いているのに気が付いた。マッドライダーズたちは蹴った気がしないんだけど。


「ねえねえ、暴力は良く無いよ? 蹴ったの誰?」


 ぼくは慌てて止めに入って、男の顔を見た。あれ、この人。


「小鳥ちゃん先輩っ!?」


「誰が小鳥ちゃんだっ!」


 白雪小鳥先輩だ。なんでこんな所に居るんだろう。小鳥ちゃん先輩はマッドライダーズたちの手を振り払うと、ずれた眼鏡を直して、バツの悪い顔をする。追いかけてきた屋城と大蛇が、「知り合いか?」と聞いてきたので、ぼくは「先輩?」と答えておいた。知り合いではないけど。


「―――白雪。動画、お前か」


 小鳥ちゃん先輩の手から離れたスマートフォンを手に取って、黒江が呟く。小鳥ちゃん先輩がハッとして黒江の方を見た。黒江の手の中のスマートフォンを、赤間が覗いて顔を顰めた。


「ッの野郎……」


 赤間の額に青筋が浮かぶ。釈然としないぼくたちの方に、黒江は手にしていたスマートフォンの画面をこちらに向けた。映っていたのは、動画だ。影から覗き込むように、ぼくらのやり取りが収められていた。ぼくはハッとして、小鳥ちゃん先輩を見る。


 ブラックスワン。


 頭の中に、ドローンで撮影を行っていた動画主の名が思い浮かぶ。


「っ、それ、返せっ!」


 小鳥ちゃん先輩が手を伸ばす。大蛇が不機嫌そうに顔を顰めながら、指の骨をバキバキと鳴らした。


「隠し撮りとは、良い度胸だな」


「くそ、不良どもがっ! っ……!」


 小鳥ちゃん先輩は睨みながら、腹を抱えてうめき声を上げた。やっぱり、誰かに蹴られたらしい。


「誰にやられたの?」


 ぼくは取り敢えず間に割って入って、小鳥ちゃん先輩の方に屈んだ。暴力はいけませんよ。暴力は。


「う、ウサギのお面被った、変な女だ……小学生みたいなパンツの……」


「もしかして、黄色いウサギさん?」


「オイ退け、チビ! こういうクズはな、一発殴らねぇと、解らねぇんだよ!」


 大蛇がぼくを無理やり退かす。こっちが話してるのにっ! 黄色いウサギさん、ここにも来てたのか。謎な人だ。


 暴力は嫌だけど、巻き込まれて殴られるのは嫌なので、つい避けてしまう。ぼくはチキンですよ。


 大蛇は小鳥ちゃん先輩の胸倉を掴んで、無理矢理立たせようと引き起こした。小鳥ちゃん先輩が苦悶の表情を浮かべて、大蛇の手を解こうとするけど、引きはがせないみたいだ。ぼくはオロオロしながら、周囲を見る。赤間は腕を組んでみている。蛟ちゃんは腰に手を当てて、不機嫌そうに小鳥ちゃん先輩を睨んでる。屋城もマッドライダーズたちも、大蛇と同意見のようだ。黒江は、考え事をするように顎に手を当てている。


 まずいよ。暴力沙汰は。


「クズはどっちだ。イカレた不良どもが」


 小鳥ちゃん先輩が悪態をつく。動画からは、不良への執着を感じた気がするけど、何かあったんだろうか。


「ちょ、ちょっと」


 ぼくはか細い声で、大蛇に声を掛ける。ああ、ぼくの声なんて聞く気ないだろうなあ。


 そう思って、同情気味に小鳥ちゃん先輩を見た。


「―――ちょっと待て」


 そう言って、大蛇の拳を止めたのは、黒江だった。


「何だ、テメェ!」


「白雪」


 水を差された不満を黒江にぶつける大蛇を無視して、黒江は小鳥ちゃん先輩の乱れたシャツを掴んだ。大蛇が引っ張ったせいで、ズボンから裾が出て、お腹が見えかけている。黒江は何を思ったのか、そのシャツを捲って、お腹を剥きだしにした。


「見ろ」


 黒江がそう言って、小鳥ちゃん先輩の腹をぼくらに見せた。


「な、なにをするっ!」


 そこにあったのは、赤間や黒江、紫藤姉弟の身体にある紋章と、同じ紋章。


 暁の騎士団のリーダー、ホワイトフィンチの紋章だった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます