第30話 バナナパッションフルーツ味だ。



 白雪小鳥。

 赤月高校三年生、週に5日塾通い、志望校は都内の国立大。コンピュータープログラミングが得意で、地元のIT系企業主催のプログラミングコンテストでの優勝経験あり。部活は去年までハンドボール部。


「なるほど、なるほど。ハンドボール部ってうちの学校あったんだ?」


 ぼくは以前、職員室から抜き出した生徒の名簿をスマートフォンで眺めながらそう呟く。オネェ先輩の言っていたナンバー1だという彼のデータは、やっぱり気になるのでさっそくチェックしてみた。学校にあるデータだけだけど、優秀なのがわかる。


「ナンバー1かぁ」


 黒江がナンバー2だからね。暁の騎士団でいうと、ブラックドラゴンがナンバー2。ナンバー1はホワイトフィンチだ。生真面目で頭の固い、正義の熱血漢。そしてインテリ。ザ・パワハラって感じの、有能すぎて能力が低い仲間を叱咤する、暁の騎士団のリーダー。


 小鳥ちゃん先輩がどんなタイプか解らないけど、眼鏡のイヤミキャラは鉄板だからね。キャラづけの為に設定をお借りしても良いかもしれない。ふふふ。


 ぼくは妄想しつつ、教室へと戻る。あんまりウロウロしてると、また赤間が来て怒るからね。


 教室に入ると、まだ先生が来ていないので、クラスメイトたちも席を離れ、好きに喋っている。教科書や参考書を広げている生徒が目立つのは、もうすぐテストだからだろう。


(勉強してないなあ。赤間って、成績はどうなんだろう? 不良のくせに成績良いタイプだったりして)


 最近はそういうキャラも居るよね~、と、ニヤニヤ笑いながら席につくと、前の席に座る兎本が振り返って眉を寄せた。


「なに笑ってんの? キモイよ?」


「ちょっと、いきなり酷いですよ? あなた一生ラノベのヒロイン出来ないからねっ?」


 まったく、女子って平然と酷い事言うよね。ライトノベルのヒロインだったら、主人公がどんなに冴えない奴だって、優しくしてくれるもんだよ。兎本は唇を尖らせて、面白くなさそうな顔をする。


「あんた、女子に幻想なんか抱いてないくせに。深夜アニメ見過ぎなんだよ。オタク」


「今期は2作しかみてませんー。あ、でも教室でぼくみたいな奴に話しかけて来る点はポイント高めです」


 なんでだか、兎本は最近ぼくに話しかけたりしてくるようになった。ちょっと前まで空気だったはずなんだけどね? もしかして、赤間のせいでぼく、目立ってるのかな?


 兎本はぼくが褒めた(?)のに気を良くしたようで、机のなかから棒付きの丸いアメを取り出してぼくにくれた。レモンミルク味だ。


「久遠さ、あんた最近、3年の教室行き過ぎ」


「なんで知ってるの?」


「知ってるから」


 そう言って兎本は自分もアメの包みを開けて口に突っ込む。バナナパッションフルーツ味だ。もうすぐ授業始まると思うんだけど。ぼくは包みを開けず、学ランの胸ポケットにアメをしまった。


「まあ……用事があるんだもの」


「面白くないよねえ」


 何が?


 兎本はぼくの話なんか聞いていないようで、スマートフォンを取り出して操作している。顔が険しい。SNSを見ているようだった。


「流行ってんじゃん、動画」


「流行に乗れるタイプじゃないので、ダンス動画とかはちょっと……」


「違うから」


 兎本は不機嫌な様子でジロッと睨んだ。そのままスマートフォンに視線を戻し、画面を操作する。ううむ。何だか機嫌が悪い。


 ぼくが困っていると、プルプルとぼくのスマートフォンが鳴った。珍しい。最近アドレス帳に件数は増えてきたけど、特に連絡ないものね。


 そう思って画面を開くと、知らない人からのメールだった。アドレスがリンクされている。スパムメールだろうとごみ箱に捨てようとしたぼくに、兎本が顔をしかめた。


「それ、アタシ。消さないでよ」


「え、あっ。ごめんなさい」


 兎本かっ。って、何でぼくのアドレス知ってるんですかね? 何処かにさらされてるの? 怖いんだけど。


 取りあえず登録は後にしてリンクを開く。見ろと言う事なんだろうから。リンク先は動画投稿サイトだった。


(赤月市某所・暴走族は死ぬべき―――)


 動画タイトルには、なかなか過激な文字が踊っている。説明にある通り、動画は赤月市の駅近くの路地裏のようだった。暴走族らしいライダージャケットの少年が、火を着けた花火を民家に投げ入れて笑っている様子。帰宅中のサラリーマンに絡む不良らしい生徒。女子高生を追いかけ回しながら笑う不良など、様々な動画が上がっていた。なるほど。不良って赤間くらいしか知り合いがいなかったけど、中々タチが悪いもんだ。


 動画はどれもドローンによる隠し撮りらしい。コメント欄は煽りと荒らしで荒れていた。


(これ、黒江の動画撮った奴と同じだよね)


 アカウント名はブラックスワンか。何だか、ぼくと似たものを感じる。


「事情通って、この辺の不良に詳しい掲示板の有名ユーザーがいるのは知ってるでしょ?」


「ん? ああ、見たことはあるかな?」


 確か、赤間とマッドライダーズに追われた日、掲示板で色々言ってた奴だよね。他の掲示でも、赤月市関係の所には出没していた気がする。


 それがどうしたんだろうか?


「疑われてるんだよ。不良の動きに詳しい事情通が、ブラックスワンじゃないかって。勿論、そんなわけ無いんだけど」


「へぇー」


 ぼくが世間話のノリで相槌を打ったのが気に入らないのか、兎本は頬を膨らませて、くわえていたアメをぼくの頬にグリグリと押し付けた。


「痛いっ! 痛いよっ!?」


「何とかしてよ。あんただってヤバいんだから」


「なんで!? なんでぼく!?」


 兎本はアメを離し、もう一度口に入れようとして、顔をしかめてやめた。そのアメをぼくの口に押し込んでくる。なんなのこの子。


 口の中にバナナパッションフルーツ味が広がる。割りとフルーティー。


「動画上げられた、幽鬼ってチームが怒ってる。事情通―――ブラックスワンの正体を暴いた奴に、賞金をかけたよ」


「それが、なんでぼくに関係あるの?」


 頬がベタベタするんですけど。


 兎本はぼくがリュックサックからウェットティッシュを取り出す間、怒ったように腕を組んでいた。


「パソコン詳しいやつ、狙われるよ」


「ぼくは詳しくないんですが」


「教師のパソコンからデータ抜けるやつが、何言ってんの」


 兎本はそう言いながら、「Ajifly」と呟いた。ぼくは目を見開いて、兎本を見る。


 もう少し兎本に聞きたかったが、丁度先生が入ってきて、話はそこまでになってしまった。ぼくは兎本の背中を眺めながら、口の中のアメを取り出して、じっと見つめたのだった。


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