第9話


 決めたぞ。俺は。

 久遠アイツに関わらない。


 俺は久遠と別れたあと、すぐさま教室に戻って鞄を掴むと、校門から外に出た。アイツの事だ。すぐにでも例の作戦を決行するに決まってる。なんか奴の行動が解るようになってるのが癪だが、そんな事を言ってる場合じゃない。


 奴はヤバい。

 なんというか、ホンモノだ。


 アレに関わるのは得策じゃない。さっさと縁を切るに限る。久遠の言うナンバー2は確かに気になる。大人しくなったとは言え、マッドライダーズの件がスッキリ片付いた訳じゃない。いずれ報復があるかもと思えば、俺だって保身したくなる。そういう意味では久遠の言う通り、仲間が欲しい。


 一瞬、仲間を探すって言う久遠にほだされかけたが、アイツのおかしさに冷静になった。


 クロエとか言う奴にはご愁傷さまとしか言えん。俺に奴を止めるのは難しい。コレと思うと周囲が見えなくなるのはオタクの特性なんだろうか。


 裸にするってのは、ある意味最強で最悪のアイディアだとは思う。写メでも撮って脅す気らしい久遠に、俺は心臓が冷えた。相手はナンバー2だ。真っ向勝負して勝てる相手じゃない。それをハメようというらしい。


 久遠はあの後、宣言通り職員室に向かった。ばか正直に行ったところで、個人情報が入ったパソコンを見せてくれるはずが無いのだが、妙に自信満々だ。


 俺はその隙に、学校から逃げ出した。サボったのがお袋にバレたら面倒だ。駅前のカラオケか、ゲーセンで時間を潰すしかない。


 公園の横を通り過ぎて、駅に向かう路地を折れ曲がる。


「赤間! 帰るの!?」


 その声に心底ビビって、俺は鞄を地面に落とした。前方に表情の見えないくせ毛のチビ―――久遠が立っている。


 俺は校門から真っ直ぐこの路地に向かって歩いてきて、前方に続く道に迂回する道はない。曲がってはいるが一本道だ。おかしい。


「なっ……なんで居る!? おかしいだろ!」


 青ざめて叫ぶ俺に、久遠が落とした俺の鞄を拾って、砂を払った。


「なにが?」


「ホラーかよ……」


 学校からここまでに、先回りするルートでも有るんだろうか。とにかく、目に前に現れた久遠を、お化けでも見た気分で凝視する。


「もう。せっかく黒江のクラス解ったのに。あ、黒江竜哉くろえたつやっていう3年生だった。外人さんじゃなかったよー」


 ヘラヘラ笑う久遠から鞄を奪い取って、俺は久遠を見下ろす。話から察するに、すでに職員室から情報を抜いてきたらしい。


「どうやって調べたんだよ。センコーに知り合いでもいんのか?」


 だとすれば相当、不良教師だが。もっとも、久遠に弱味を握られてるのかも知れない。俺にそう思わせる久遠が、いかにヤバい奴か解るってもんだ。


「んや、普通に入って、パソコンの電源いれて、だよ」


「……」


 そういや、屋上の鍵を複製したって言ってた時も、似たような事を言ってたな。


 ステルス爆撃機かテメェは。


 本人は「存在感がない」とか言ってるが、それマジなんだろうか。少なくても俺には、妖怪みたいな奴なんだが。


 ……妖怪だから気づかれてねぇのか。


 コイツ実在してるよな? 俺、家まで運んだし。妹っぽいの見たし。


 思わず引き気味に久遠を見下ろしながら、先程の話に戻す。確か、3年とか言ったか? 先輩じゃねえか。まあ、ナンバー2なんだから当然と言えば当然だが。


「んで? 黒江ってのが、犠牲者かよ」


「え!? なんでいきなり犠牲者になってるの? 何があったの? サクリファイス!?」


「なに言ってやがる」


 俺は諦めて溜め息を吐いた。


 解った。逃げられないんだな。となると、黒江とか言うのには悪いが、久遠の気が済むようにするしか無いんだろう。なんとなく、久遠の思い通りにしかならない気がしてきた。多分、呪いとか黒魔術とかやってんだろ。いかにも、な見た目してるしな。


 だったら、自分の身可愛さで悪いが、黒江とやらに犠牲になってもらおう。黒江が仲間になれば、俺に対するウェイトも減るに違いない。それに、対久遠のなにか対策を一緒に考えてくれるかもしれない。


 巻き込ませて貰おうじゃないか。


「で? 授業も調べたんだろ?」


 俺の言葉に、久遠は嬉しそうに頷いた。マジ、厄介。


「うん! プールの授業で更衣室を襲撃するよ!」


「小学生のイタズラかよ……」


 頭が痛くなってきた。俺、それやられたらイジメだと思うぞ。


 全く。面倒ばかり起きやがる。

 マッドライダーズより、久遠の方が厄介じゃねぇか。


 胸中で毒を吐きつつ、俺は久遠を連れて学校へと引き返して行ったのだった。


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