第8話



 校舎裏に行くと、案の定草むらの方に赤い髪が見え隠れしているのが目に入る。ぼくが近づくより早く、赤間が起き上がって振り返った。


「またテメェかよ」


 少しうんざりしたような顔だけど、ぼくの存在にすぐ気づいた所を見ると、そうでも無いのだろう。ぼくは赤間の隣に駆け寄って、草むらの上に正座した。なんで正座かっていえば、まあ、何となくだ。その方が身長が近いとか、そういう深い意味はない。


「赤間、赤間。仲間が見つかったかも!」


 ぼくの言葉に、赤間は方眉を上げて首の後ろを掻いた。


「あん? 仲間? いらねぇよ、そんなんもう」


 目を反らして吐き出す赤間に、ぼくは驚いて思わず赤間の学ランの襟を掴む。


「うおっ」


「なんで!? なんでそんな事言うんだよっ! 諦めるのかっ!?」


 赤間が驚いたように、ぼくを見る。ぼくは言いながら自分の手とか口が震えてるのに気づいたけど、気づかないフリをする。こんな大声、出したことないし、ひとの胸ぐらを掴んだこともない。


「ごごっ、仲間っ、ささがしてただりょっ!」


「落ち着けよ挙動不審」


 赤間がぼくの腕をつかんでひっぺがす。渾身の力で掴みかかってるんだから、赤子の手を捻るように外すのをやめてくれ。


「今さりげなく酷い侮辱を言ったね!?」


「うるせえよ挙動不審」


 二回も言ったよ。この人。

 そりゃ、流暢に落ち着いて喋るなんてぼくには出来ないけど、頑張って大声だしてるのに。


「解るよ……。期待してたのに、ずっと待ってるのに、応えてくれない気持ち……」


 ぼくは地面を見ながら呟いた。赤間は挙動不審とは言わなかった。ただ、ぼくの言葉を聞いているようだ。


 ぼくは地面を這うアリを眺めた。髪の毛の隙間から見える世界は眩しくて、地面に射す陽射しに、目がチカチカした。


「だから、ぼくは探すよ。……赤間の、仲間を」


 そう言って口を結んだぼくの頭上に、「はぁー……」と溜め息が聞こえてきた。それから、ゴン。と、頭をグーで叩かれる。


「痛い!?」


「痛くはねえだろ。仲間なんか、別に良いってんだろ。しばらく大人しくしてるつもりだし、必用ねえよ」


 赤間はそうは言ってるけど、迷惑そうでも、ましてや怒っているわけでも無いようだった。焦る必要はないと言うことだろうか。


「うん―――そうだね。焦らず、確実に、だね」


「そういう訳じゃねえがな……。まあ良い。話ぐらい聞いてやるぜ。どこのどいつだ? 言っておくが、変なチームに入ってる奴はお断りだぞ」


 変なチームとは。まあ、暁の騎士団に所属している彼らだ。内規でもあるんだろう。


「それは、大丈夫だよ。ブラックドラゴンは一匹狼だからね」


 ぼくの言葉に、赤間は顔をしかめた。


「ブラックドラゴン?」


「あっ。ごめんっ。気安く呼んじゃいけないんだったね……」


 危ない危ない。赤間の機嫌を損ねるところだったよ。クールで、騎士団に所属しながら、一匹狼のブラックドラゴンは、いつもは一人だが、いざという時は頼れる兄貴分。レッドドッグとも仲が悪いわけじゃない。せっかく赤間がぼくを受け入れてくれてるのに、嫌われたら大変だ。


「何年生とか、何組とかは分からないんだけど、この学校の生徒だよ。クロエって言うんだ」


「クロエ? どっかで聞いたような……」


 赤間が首を捻りながら顎に手をやる。スゴい。もう惹かれ合ってるんだろうか。運命力ってやつか。やっぱり『クロエ』はブラックドラゴンに違いない。


「で? そいつが? 力を貸してくれるとでも言ってきたのか?」


 そもそもソイツ、強いのかよ? と赤間が目を細める。もちろん、ブラックドラゴンなんだから強くないはずがない。加えて、ぼくを助けてくれた様子からも、強いのは明確だ。


 ブラックドラゴンといえば、暁の騎士団ナンバー2の実力者だ。強い。確信。


「もちろん、強いよ。……ナンバー2の実力者さ」


 ぼくはニヤリと笑ってみせる。これで赤間も、ぼくが見つけたのがブラックドラゴンだと察しがつくんじゃ無いだろうか。驚いて目を見開いている。


「ナ、ナンバー2……」


「あ、慌てないで。まだ確定じゃないんだ」


「な、なんだよ。ビビらせんなよ……」


 ホッと胸を撫で下ろして、赤間が息を吐く。あんまり期待させちゃ悪いからね。ちゃんと説明しておかないと。


「確認が必要なんだ。ぼく一人じゃ厳しいから、赤間にも手伝って欲しくて」


「あん? なんだそりゃ。度胸試しでもすんのかよ?」


 ぼくはコクンと頷く。紋章を確認するためには、やむない行為なのだ。


「クロエを素っ裸にする」


「………」


 赤間が黙り混む。聞こえなかったんだろうか? しばらく待ってみると、「なんだって?」と声が帰ってきた。やはり聞こえなかったらしい。


「だから、丸裸にするんだって」


「お前……。恐ろしい事を……」


「だって仕方がないだろ? それが確実なんだから」


「確実たって、いや、でもナンバー2……」


 赤間はブツブツと何か考えているようだった。


 幸い、もうすぐプールが始まる頃だ。そこを狙えば、手っ取り早い。クロエの身体の何処かにある紋章を探すのだ。


「まずは学年とクラスを確かめないとね。それはぼくがやるよ」


「どうする気だ? 昇降口で待ち構えるのか?」


「そんな面倒なことしないよ。職員室に生徒名簿が入ったパソコンがあるから、見てくるよ」


 得意気に笑ってそう言ったぼくに、赤間は笑ってくれなかった。





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