第7話



 学校の廊下を、ぼくはウキウキと歩いていた。こんなに楽しいなんて、入学以来―――いや、今までにあっただろうか。ぼくの胸だけに秘めていた、この世界の秘密と、ぼくは邂逅したのだ。しかも、ヒーローと知り合えた。世界の片隅で、ひっそりと繰り広げられている非日常に、ぼくは足を踏み入れたのだ。


(レッドドッグが見つかった。それなら次は、相棒と言える親友の、イエローヘアだろうか)


 ぼくは懐に仕舞い込んだ黒聖闇書ブラックホーリーダークコデックスをこっそりブレザーの中から開いて、項目を見る。


 イエローヘア。ヘアってのは野ウサギだ。その名の通り、強靭な脚力と瞬発力で敵を翻弄する、格闘タイプの戦士だ。


 心優しく、レッドドッグと良きライバルでもあるキャラクターである。


(でもな。イエローヘアの刻印は、まだわからないんだよな)


 ぼくは黒聖闇書ブラックホーリーダークコデックスを抱えたまま、唸り声をあげる。やはり、赤間の仲間を探すにしても、なかなか困難だ。


「やっぱり、ブラックドラゴンだよなあ。なんと言っても、カッコいいし、一匹狼だし!」


 鼻息荒く意気込んで、ついテンションのままに叫ぶぼくを、通りすぎ様にがらの悪そうな生徒がジロリと見ていった。


 ぼくが歩くこの特別教室棟は、不良生徒たちがたむろするたまり場になっている場所だ。授業をボイコットして溜まっている生徒も多い。ぼくも、授業の都合で来る以外は、全く近づかないのだが、今は勇気を振り絞ってやって来たのだ。


 昼休みの特別教室棟は、やはりガラの悪い生徒が多い。金髪にモヒカン。ソリの入ったボウズ頭の少年らがジロジロと睨んでくる。制服も短かったり、刺繍が入ったりしている。


「ああん? あん? あん?」


 彼らの横をビクビクと通り過ぎようとするぼくに、ピンク色のトサカ頭の少年が、目の前に立ちふさがって、威嚇するように声を上げる。あんあん喘がれても困るが、頭上から青筋を立てて睨むトサカの迫力に、ぼくは縮こまって「ヒイ、ヒイ」と避ける。その様子を、他の少年らがゲラゲラと笑った。


 トサカはぼくをからかうのが楽しいのか、ぼくの足を蹴ってくる。


「キャハ! 踊れ、踊れ!」


「良いぞキモオタ」


「ヒッ、ヒィ!」


 なぜぼくは色んな人にキモオタと言われるんだろうか。アニメグッズも持ち歩いてないし、ライトノベルもカバーをして読んでいるのに。


 トサカの蹴りは遊んでいるだけらしく痛くないが、ぼくは知っている。このパターンは、油断したときに本気の蹴りが来るやつだ。それで、床に這いつくばってピクピクするぼくをまた笑うやつに違いない。ならば、そのタイミングを見計らって、蹴られたふりして転がってやればいい。


 どうとでもなれ。


 そう思った瞬間、案の定、トサカの蹴りがぼくの腹にめがけて飛んできた。


「ヒョオ!」


 ぼくは奇声を上げながら、足が来るのを待った。が、一向に蹴りは来ない。


 恐る恐る顔を上げると、トサカが驚いた顔で横の方を見ていた。トサカの足は、蹴ろうとした姿勢のまま、ピクリとも動かない。そのはずだ。トサカの足を、男子生徒が掴んでいた。


 長身とはいえ、細身の体躯。黒い髪の襟足を伸ばしたその生徒は、表情を変えずにトサカを見下ろしている。


「ク、クロエ……」


 トサカが呟く。先程まで笑っていたトサカの仲間も、クロエと呼ばれた生徒に、驚愕の表情を浮かべて青ざめている。


「うせろ」


 クロエがそう低く言うと、トサカたちは舌打ちをして、ぼくを睨んで立ち去っていった。


「あ、あのっ」


 ぼくは礼を言おうとしたが、クロエは背中を向けると、無言で立ち去ってしまった。


「か、かっこいい……」


 ぼくは思わず呟いて、クロエが消えるのをじっと見守っていた。








 特別教室棟に行った収穫があった。そもそも、ぼくが特別教室棟なんて学校内危険度ランキング上位に入る特別教室棟に行ったのは、ブラックドラゴンがいるかもしれないと思ったからだ。


 黒聖闇書ブラックホーリーダークコデックスに書かれている暁の騎士団の転生者は、互いの紋章に引かれ合うのだ。つまり、レッドドッグ―――赤間の近くに、仲間が居るかもしれない。


 現状、ブラックドラゴン以外に探せる人物が居ないので、捜索の範囲を狭めたのだ。ブラックドラゴンは一匹狼キャラ。ならば、教室でワイワイやってるリア充なわけないし、つるんでる不良でもない。ある意味オタクはボッチだが、ブラックドラゴンがオタクなハズない。赤間も一匹狼って言えばそうだけど、ブラックドラゴンは、何というか、こう、違う。


 なので、一匹狼の不良を探しに来たのだ。


 そう。さっきのクロエってやつは本当にイメージに近い。彼がブラックドラゴンなんじゃないかと、僕は疑ってるわけだ。


 ピンチに助けてくれる所とか、最高に良いじゃないか。ブラックドラゴンはああじゃなきゃダメだ。


(クロエ。クロエか。外人さんみたいな名前だなあ)


 パッと見た感じ、上級生だろう。うちの学校は学年での差が無いから解らないんだよね。ジャージの色は違うんだけど。


(とにかく、やみくもに探すより、絞るのもアリだよね。クロエの身体に紋章があるか、探さないと)


 ぼくはそう意気込んで、校舎裏へと急いでかけおりたのだった。




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