第6話



(ぼくは何もしてないよ)


 本気で何も知らないような顔しやがって。


「あのタヌキ……」


 俺はソファに寝転がって、自分の右手を見た。


 マッドライダーズたちに囲まれて、ヤベェと思った。幸いにも、歩道橋。多対一とはいえ、2、3人相手ならばなんとかなる。その間にクソオタ―――久遠が警察を呼んだようだったから、そこを持ちこたえりゃすむはずだった。


 なのに。


 久遠の奴を家に帰して、俺も自分の家に戻った。今日はさすがに、マッドライダーズたちの襲撃はないだろう。もしかしたら、暫くないかもしれない。


 もとはと言えば、家の前にマッドライダーズたちがたむろしてるのが見えたのが発端だ。真っ直ぐ家に帰るわけにも行かず、良く知る店の方で時間を潰していたのだ。暇を持て余して、部下らしい女にセクハラしているおっさんを眺めていたら、見知った顔を見つけて、困惑したのだ。


 街を行く人影の中でも、一際目立たない、黒いパーカーにリュックを背負った、チビ。でも、俺にとっては濃い印象しかない、久遠だった。まさか本当に、仲間を探すとか言いながらうろついているとは思わず、正直、引いた。


 本気で、何考えてるか理解できねぇ。


 とにかく追い返そうとした矢先に、マッドライダーズに見つかった。恐らく、家の前に居る連中と、巡回していた連中が居たんだろう。まったく、弟の報復にご苦労なこった。ブラコン野郎め。


(そんなこたぁ、どうでも良いんだ)


 俺はしげしげと、自分の右手を眺め見る。


 何が起きたのか解らない。ただ、俺の拳が、いつもよりも威力の増したスピードと破壊力で、そして爆発したような衝撃が加わったって事だ。


(あの時―――)



『赤間! 右手の薬指を!!』



 あの久遠バカがそう叫んだから、咄嗟にそこに意識を集中させただけだ。右手。薬指がなんだよ。そう思って、そのまま振り切っただけだ。


 俺は眺めていた右手を握って、天井に突き出す。


「―――あの野郎、黒魔術でもやってんじゃねえのか」


 自分は知りません、みたいな顔しやがって。どう考えたって、アイツが何かしたに決まってる。

 脳裏に、癖の強い髪のせいで表情が良く見えない久遠が、ニタリと笑う顔が浮かび上がった。


「キモ」


 変な奴に付きまとわれるようになっちまった。

 出来れば、あんまり関わりたくないぜ。







「あーかーまー! おーきーてー!」


 甲高い声に、教室がざわめく。机に突っ伏して寝ていた俺は、その声で起きたが、正直起きたくない。教室中の注目になっているのが、刺さる視線で解る。


「赤間ー?」


 俺をお構いなしに揺さぶる久遠に、その手を払い除けて起き上がり様に怒鳴り付けた。


「うるっせえ! クソオタ! あんだよ!」


 わざとドスを聞かせた声に、教室にいた生徒が青ざめて「キャッ」と小さく悲鳴をあげるが、久遠のやつはケロッとしていた。


「いや、メール超入れたのに返事無かったから、また変なのに絡まれたのかと思った」


 久遠の言葉に、俺は尻のポケットに突っ込んだままのスマートフォンを取り出す。


(メール?)


 久遠は俺の顔を覗いて、「傷は増えてなーい」等と抜かしていた。一応、あのあとの事を心配したのだろう。余計なお世話だ。


 俺はスマートフォンを操作して、着信一覧を見てゾクッと、鳥肌が立った。通知欄の数がおかしい。見れば、全部が久遠千年の名前になってやがる。


「ストーカーかテメェはっ!」


「友達が居ないので距離感が掴めないだけです!」


「お前半分確信犯だろ!?」


 俺は着信した100を超えるメールを、確認せずに全削除する。怖い。鳥肌が引かない。


 この俺を恐怖させるって、どんだけだよ。このキモオタめ。


「―――」


 俺ははぁ、と溜め息を吐いて、久遠を見おろした。一見すれば、教室の隅を探せば何処にでも居そうなネクラなのに、ゼロ距離で近づきやがって。


 教室の視線が、恐怖から好奇心に変わっているのが解る。クソ。教室で寝なきゃ良かった。今にも雨が降りそうだった、今日の天気を恨むぞ。


「そうそう。マッドライダーズ、だっけ?」


「ああん?」


 俺は不機嫌そのものの声を上げた。久遠は微動だにせず、スマートフォンを操作している。その画面を、俺の方に向けた。


 掲示板だろうか。詳しくは知らないが、存在は流石に知っている。そのページを、眉をひそめながら流し見していると、「マッドライダーズってチームの」という言葉が目に入った。

 そのページを目で追う。


『No.366 匿名

 昨日駅前大捕物してなかった?

 すっげーうるさかったんだけど。』


『No.367 匿名

 >366

 マッドライダーズとサツが追いかけっこしてたっぽい。俺も近所。うるさかったな。』


 どうやら、昨日の騒ぎの話らしい。掲示板の情報では、近くの国道沿いの話のようだった。俺たちが逃げ延びたあと、どうやらマッドライダーズたちは警察と大捕物になったようだ。


『 No.372 事情通

 マッドライダーズってチームのトップ、昨日捕まったらしいぞ。』


『No.373 匿名

 >事情通

 マジか。情報サンクス。

 これでしばらく静かかな。警察もたまに仕事すんのね。』


 内容を目で追いながら、俺もホゥ、と息を吐いた。トップと言うことは、例のブラコン兄貴だ。しばらく大人しいなら、言うことはない。もっとも、逆怨みされそうだが。


 そう思いながら、スクロールさせた画面の文字に、俺は背筋を何かが這うような感覚を味わった。


『No.378 事情通

 いや、警察じゃないんだな。それが。

 俺の情報によると、ソイツ夜道で襲われたらしい。捕まえたってのは、別のチームの奴。恨み買ってたらしくて、集団リンチだと』


『No.379 匿名

 え。ナニソレ怖すぎ。詳しく。』


『No.380 事情通

 幽鬼ってデカイチームがあるんだが、そこのシマに侵入したって、争いになってたんだよ。

 で、昨夜やられた。全治一ヶ月で済んだらしいけど』


 スマートフォンを握る手が、汗で滑った。


 恐る恐る、久遠の方を見る。人畜無害そうなツラしたソイツが、得体の知れない『何か』にしか思えず、思わず唾を呑む。


『夜道に気を付けな!!』


 そう得意気に言った、久遠の声が、耳元に残っている気がした。



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