第3話



 変なヤツに捕まった。





 俺は溜め息を吐きながら、屋上で寝転がる。校舎裏でも良いが、あそこはセンコーが見回りに来る。


 俺、赤間戌亥は、つるまないタイプのヤンキーだ。別に他人が嫌いな訳じゃないが、誰彼構わずケンカを売るのも、金を巻き上げるのも嫌いなだけだ。だからそう言うヤツとはつるまない。結果一人なだけだ。


 俺を腰ぬけとか抜かすバカも居るようだが、しけた万引きを誇る前に、俺にケンカで勝ってみろって言うんだ。


 だが、さすがの俺も、少しマズイ相手のケンカを買った。相手は、大したことのない チンピラ崩れだ。パンチ一発で沈めた俺を、逆恨みしてるらしい。そいつが、ただのヤンキーなら良かったのだが、そいつのアニキがこの辺りの暴走族としては、かなり有名な、マッドライダーズというチームの総長だった。


 昨日俺が空き地で沈めたヤツは、そのチームの伝言係りだ。曰く、「土下座して謝って、慰謝料として10万を持って来れば許してやる」だそうだ。冗談じゃねえ。金なんか無えが、土下座はもっと嫌だ。マッドライダーズは構成員30名ほどのデカいチームだが、弟のケンカにしゃしゃり出てくるような奴は、そんなには居ないだろう。せいぜい、7、8人と言ったところか。


 とは言え、こっちは一人。袋に遭うのが目に見えてる。かといって、とんずらするのもプライドが許さねえ。


 そう思って、ふて腐れて寝ていたところに、アイツが来た。


 妙な奴だ。どう見たって、冴えないオタク。地味なネクラにしか見えねぇのに、俺の見た目にビビらずに真っ直ぐ見てきやがる。どうやら、ただのオタクじゃないようだ。同じようなオタク共は、俺を見るだけでビビって挙動不審になるからな。それどころか、「赤間くん」と来たもんだ。何年ぶりだろうか。そんな風に呼ばれるのは。


 昨日目が合って失神したのはなんだったのか、家に送り届けただけで懐かれたのか。とにかくウザイ。生徒手帳で確認した名前は、2年6組の久遠千年だった。そのまま放って置いても良かったが、マッドライダーズの連中が報復に戻ってくるかも知れねえ。そんな場所に置き去りにして、翌朝新聞に載ってても夢見が悪い。それだけだ。


 礼を言うだけなら、別に律儀な奴としか思わねえが、久遠は俺の仲間を探すと言ってきた。


 どこまで信じて良いものやら―――。


「何、考えてんだ俺は」


 俺はそこまで考えて、自分の思考にゾッとした。いくら何でも、あのひ弱なオタク野郎の戯言をうのみにして、信じるだなんて、バカげている。どう考えても冷静じゃない。


(そんなに追い詰められてんのかよ。俺は)


 ケンカなんかしょっちゅうやってる。多対一だって初めてじゃない。でも、何だか嫌な感じがするんだよな。マッドライダーズって連中は。第六感ってやつだろうか。とにかく、警戒するに越したことはないだろう。奴らだってバカじゃない。白昼堂々の襲撃はないだろうし、学校に乗りこんでくる馬鹿じゃないだろう。ある意味では、学校ってのは安全な場所だ。だから今日だって、無意味に早く登校してきたのだ。


(とにかく、あんなチビ当てにすんのも、巻き込むのもバカのやることだ)


 ヤンキーのケンカに、一般人を巻きこむなんて、俺のポリシーが許さねえ。久遠がどういうつもりなのかは知らないが、これ以上相手にするのは得策じゃない。


 俺はそう考え、瞼を閉じて眠りに落ちた。






 が。


「赤間くん! 赤間くん!」


 頭上から聞こえる声に、俺は瞼を開く。男のくせに甲高い声を出す奴に、俺は眉を顰めた。目の前には、ボリュームがありすぎて表情が良く見えねえ髪をした、ネクラチビ。久遠が居た。


「―――あん?」


 俺は不機嫌な声を出しながら、身を起こす。


 なんでここにコイツが居る。


 ここは学校の屋上だ。屋上に来るには、ちょっとしたコツが居るのだ。何せ、屋上に続く扉の鍵は締まっており、立ち入ることは出来ない。唯一来る方法があるのだが、それは三階の階段の窓から上によじ登るという方法で、見るからに非力な久遠にできるとは思えなかったし、尚且つコイツの身長じゃ、屋上に手が届くとは思えなかった。


「やっぱり屋上だった。不良がこっそり隠れる場所といったら、屋上だよね」


 満面の笑みでそう言う久遠に、俺は眉を顰めて赤く染めた髪を掻き上げる。


「―――どうやって来た」


 俺の質問に、久遠はポケットの中から得意げに鍵を取り出した。まさか、屋上の鍵か? 鍵はセンコーが管理しているはずだが。


「こんな日が来るかもしれないと思って、前に職員室から鍵を拝借して合鍵を作っておいたんだ」


「なに?」


 平然と言う久遠に、俺は耳を疑う。


 久遠は自分が目立たないのを良いことに、スルーっと職員室に入りこんで、キーボックス―――静脈認証式のキーボックスのはずだが……。の認証を外し、中から屋上の鍵を取り出して、近くの鍵屋で合鍵を作っていたらしい。


(―――悪だ)


 俺の脳裏に思わずそんな言葉が浮かぶ。


「あ、使ったのは初めてだよ!」


 ニコニコと笑顔で言っているが、やってる事がおかしい。


 俺は笑顔の久遠にゾッとしながら、人畜無害そうな目の前の男を見下ろした。


(コイツもしかして、ヤバイ奴か?)


 そう思い、警戒しながら久遠を見る。大体、俺がマッドライダーズのケンカに協力してくれる仲間を探してる事を、何で知ったんだ? 確かにあそこにはマッドライダーズの連絡係が居たが、具体的な話はしていない。挑発してやるのに捨て台詞は言ったが、俺の心理までは読めないはずだ。


(読めない、はずだよな?)


 俺は得体の知れないものを見る気分で、久遠を観察する。ニタリと笑う顔が、不必要に怪しく見えて仕方がなかった。


「で? 何しに来た」


「うん、レッ……赤間くんの協力者、早く探した方が良いだろうなと思って。今日から探すね」


「―――まだ言ってんのかよ」


 やはり、俺が早く仲間を探していることを知っている。無害そうなツラして、実はどこかのチームの人間なんだろうか。そして、誘い込みをされてるんだろうか。


 確かに、そう言う奴もいるらしい。バカに頭が切れる連中で、普段は優等生らしいが、裏ではとんでもないことをやってる奴ららしい。久遠も、そうなのかもしれない。頭脳でチームを取り仕切るヤンキー。俺からすれば、クソみてえな連中だ。もしそうなら、納得できる。チームの人材を確保するために恩を売って、俺を傘下に入れようという奴だ。


「当然だよ。レッ……赤間くんの仲間をぼくも見たいしね」


 なんでコイツいちいちどもるんだ。


「―――何が目的だ?」


 裏を探るなんてやり方は、俺の性に合わない。俺はずばり聞いてやった。案の定、久遠が僅かに動揺する。


「も、目的とか……し、しいて言えば、横で見物したいというか……野次馬根性? でもそれ以上に、赤間くんの仲間を探したい気持ちが強いんだよ! 解るでしょ!?」


「解んねーよ。何なんだテメェは気持ち悪ぃ」


「良く言われます!!」


 嬉々として言うことじゃねえ。


 ぶん殴ってやりたくなるが、理由もなく殴るのは俺のポリシーに反する。それ以上に、久遠はテコでも動きそうに無い。


 俺は深いため息を吐いて、「怪我しても責任は取らねえぞ」と呟いた。



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