三題噺「廃墟のレストラン」「剣」「請う」

 人々が談笑していたテーブルも、あなたが腕をふるったキッチンも、粉々のガラスが散らばるなかで晩夏の風に吹かれている。

 戦は確かに終わらせた。けれど、愛したものは何ひとつ残らなかった。剣の技はあなたのためだけに磨いてきたのに。

 あなたの定位置に壊れたスツールが残っていた。野の花を腐食した床に置いて目を瞑る。

 懐かしい香りの風が吹く。あなただ、と思う。あまり優しく髪を乱さないでくれ。泣くまいと決めて来たのだから。

 許しなど請わなくともあなたは許すのだろう、恨んでくれと言っても笑って首を振るのだろう。だからこそ、生き残るのはあなたであってほしかった。あなたの根ざす土地の人々であってほしかった。

 返り血のぬるさを忘れられない手では、祈りの形も作れない。

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