カッターナイフ

 日曜日だった。雨だった。終わっていく休日をベッドにうずくまって聴いていた。時おり風が強まって、ガラスを叩く雨粒の存在がはっきりする。光がいけない。煮え切らない曇天は取りこんだだけの洗濯物に青みがかった陰影をつけ、ぼんやりとワンルームを満たし、キッチンまでの距離を遠く感じさせる。

 シーツに染みついた自分のにおいに、安心していいのか嘆いていいのかわからない。

 手を伸ばす。すぐそばに机はあって、昨日散らかした筆箱の中身が転がっている。取るのはカッターナイフ。プラスチックの軸に薄っぺらい刃。力の入らない指さきで、かちかちと一段ずつ繰りだしていく。かすかに浮いた錆を見る。段ボールを開封したときの糊のあとを見る。便利だけど万能じゃないし、わたしをどこに連れ去ってくれるわけでもない。

 だけど、出口のみえない日々に鍵のかわりと握るなら、このくらいがちょうどよかった。ちゃちで、決して大事につくられたものじゃなくても役には立つ。わたしもそうかもしれないと淡く期待をもてる。かち、かち。出した刃を戻しながら切れば痛いはずの肌を意識する。ひらけば血があふれる身体と思えば少しだけ、手足に熱が戻るような気がした。

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