「月」「少女」「希薄なメガネ」

 少女は地球を見上げる。青き惑星はコロニーを覆うドームの頂点近くに輝いている。たぁん、と飛び上がれば、故郷よりも弱い重力を束の間ふりきれる。

 舗装された地面は砂埃をたてない。惑星ほし明かりに浮かぶ横顔に、眼鏡のふちが蜘蛛の糸めいてきらめく。薄く、軽く、存在感のない視力矯正の道具。

 地球と宇宙のあいだに大気があるように、コロニーと外のあいだに隔壁があるように。レンズはひそやかに少女を世界から遠ざけていた。

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