痛覚未満のコンテンツ
メディアには痛みなんて搭載されてないでしょ。わたしたちは実際に傷つくしか痛みを知る方法がないんだ。でも許されていない。子どもが転んで血でも出したら大騒ぎじゃない。責任問題にされてさ。
昔、この国がもっと広かったころ、子供は簡単に怪我をするものだったんだって。人間は外に生きていたんだよ。外じゃ危険を排除できないじゃない。自然なんだから。それでも生き延びられるんだね。動物だよね、人間。
最近流行ってるコンテンツも薄ら味で気持ち悪くない? 五秒でげろげろだよ。暇つぶしにしたって、あんなのやらないほうがましだって。誰も文句を言わないようなものは誰も好きじゃないっていいかげん気づくべき。せっかく五感のほとんどを自分に投影できる技術があるんだからさ、もっと特殊な経験を得られるものにしたらいいじゃない。生きてる実感なんて現実の暮らしに見つけられるわけもないんだし。
そう。そこで痛みだよ。まったく知らないとも言い難いけど、遠い記憶なわけじゃない。かつて自分を傷つけることで命の実感を得ようとする人たちがいたんだって。ん? もちろんその時代ですら病気だよ。だけど、だからこそ興味湧いちゃった。
痛いって、鋭いでしょ。
わたしだって鋭くありたいんだって。
わかってくれる? じゃ、同士ってことにしてもいい?
うん。わたし、秘密をひとつ持っているよ。教えていい?
罪にはならないはず。聞いた話だけど、マイナーすぎるだけ。
ほら、これだよ。文字があるでしょ。これもコンテンツなんだよ。教科書じゃなくて、娯楽。もうほとんど作られてないみたいだけど。文学ってやつ、国語の授業で一瞬やるでしょ。あれの仲間だよ。
勉強じゃないって。わたしもまだ完全には良さがわかんないんだけど、これを教えてくれた人はこの中に痛みが閉じ込められてるって言ってたんだ。
どう使うって、読むんだよ。でもコンテンツだよ。文字から感覚を想起するんだ。だから自分の理解できるすべての感覚にアクセスできる。ずっと続けてれば現実よりも深く感覚を呼び起こせるようになるんだって。わたしはまだ、だから途中。
大勢に向けてないせいでこれはほんとに鮮やかなんだよ。わかんない言葉とかいっぱいあるからぜんぜんだめなんだけど、でもすごく鋭いってことは感じるの。
あなたにだってできるよ。できそうって思ったから声かけたんだもん。
教えてくれた人はね、自分でも作りたいんだって。ね、一緒に見届けようよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます