8.タイムマシン・シェルター・博士(最初と最後が同じ文)

「タイムマシンがあったら素敵だと思いません?」

 唐突に奥さんは問うた。かと思えば、答えを待たずに脈絡なく次の言葉を紡ぐ。

「千世は私たちのこと、どんな風に話したのでしょうね」

 答えられずに曖昧に笑う。奥さんは振り向かなかったから、まるで意味がなかったけれど。

 玄関からまっすぐ長く続く縁側は、ガラス戸まで開け放たれてキンと冷たい。庭の清潔な玉砂利と立派な枝ぶりの松はかえってファンタジーめいている。

「夫とは大学院で出会ったのです。二人して博士号を取ってこんな暮らしをしているもので、こうまで無駄な学歴もないと笑われもしました。でも、私たちにはこの家が、この生活が必要なのです」

 釘をさされているのだろうか。私はまだ、千世の信頼しか持たない異物でしかない。

「あなたは千世が許したひとだから、私たちもそうありたいとは思っています。でも、ここはまたとないシェルターだから。少しだけ、時間をくださいね」

 奥さんは言い訳のように付け足して、今度は立ち止まって私に目を向けた。

「ねぇ」

 なにかを懐かしむかのような瞳。

「タイムマシンがあったら素敵だと思いません?」

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