自主企画「三題噺は薫風と出会いを運ぶ」

A『海』『眠り』『恋人』

 潮騒のなかで目をさます。彼は隣でまだ寝息をたてている。頬をつついてみても身じろぎひとつしなかった。どうやって起こそうか。例えばキスをするとか、抱きしめるとか、くすぐるとか、死なないくらいに首をしめてみるとか。


 どれも実行に移す気にはなれなくて、徒歩一秒のビーチへ出ていく。南国の風が耳をかすめた。二人で過ごしたくて来たのに、今はひとりが心地よく感じられた。

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