自主企画【短編向け】感情のお題企画1『楽しむ』

祭の夜に

 領主の娘を乗せた馬車が村の広場を通り過ぎる。ちょうどこの日は祭があって、たき火を囲んで人々が踊っていた。靴も買えない少女たちが、石畳の上にほつれたスカートをひらめかせている。炎が空をなめるようにうねる。広場はひどく活気に満ちていて、掛け声と歌と手拍子、それから時々するどい口笛が響く。


「ねぇ、あのひとたちの踊りは何という名前なの」

「名前はございませんよ。彼らには踊りを教える者がいませんから」


 ふうん、と気のない返事をしながら、娘の足は無意識にリズムを刻んでいる。広場の光が遠ざかっていく。ひときわ高く笑い声が立った。

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