第288話ただ一人の証人
透析後梅田の喫茶店で前の会社の工事担当の彼女に会います。
「引っ越して仕事は決まりましたか?」
「私も45歳を超えたので履歴書を30通送って面接が6回、それでようやく決まりました」
「へえ、今度はリフォーム会社ですか?」
「見積もりを取りに行くのです。でもこの会社ももうちょっとでだめになりところでした。一度踏み外したらこんなもんだと思いました」
これは一度きりの工事課長のことを言ってるようです。
彼女は新聞の切れ端を出します。
「恐喝罪で実刑ですか?」
「私も知らなかったのですが、使い込み、恐喝、セクハラとなんと前科5犯だったのです。それで今回は警察が彼の自供で共犯で私も呼ばれたのです」
「それで?」
「あの工事の記録が役に立ちましたし、一切お金の授受もありませんでしたから。でも彼は100万を現金で渡したと証言していたのです」
「困った奴だな」
「それが鞄にあの会社の大封筒に入った300万があったのです」
「告発の300万を持ってたわけだな」
「これは刑事さんに聞いたのですが、会社が民事裁判を5300万で起こしたようです」
「あの会社らしいですね。あれはあの社長の得意の無言の指示ですがねえ。でも彼には係りたくない」
彼女は別れ際に労働裁判の詳しい証言を渡してくれました。
私のただ一人の証人です。
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