第6話「狂気のオーディション」

「それじゃあ、気をつけて帰るように」


 帰りのホームルームが終わる。

 本来であれば学校から解放される至福の瞬間。


 しかし今日は訳が違う。


「はい、香菜ちゃんと、佐須駕野君集合!」


「はい、はーい!」

 ノリノリの香菜。


「…………」

 トボトボ向かう俺。


「ほら、佐須駕野君、もっとやる気だす!

 そんなんじゃ足跡、残せないよ?」


「いいか、瀬川さんが残そうとしている足跡。

 それは何れの日か昇華するぞ……黒歴史にな」


「あはは、佐須駕野君、セリフが中二病」


「一正さん言うと、説得力ありますね」


「…………」


 こいつら覚えてろよ。いつか復讐してやる。


「場も和んだことだし、本題!」


「部活動作成申請書を貰ってきました。

 とりあえずここに二人とも記入して下さい」


「分かりました!」


 そういうと香菜は自分の名前と俺の名前を記入した。

 しっかりと俺の名前は俺の筆跡で。


「一正さんが渋る前にさっさと書いちゃいました!」


「香菜ちゃん、ナイス!」


 何だよその無駄スキル。

 もう諦めたから普通に書いたのに。


 ……ん?


「おい、ここに部活動作成を申請する場合は、四人以上が必要と書いてあるぞ!」


 これで、もしかしたら助かるか……?


「お、よく気づいたね佐須駕野君!」


「どうします?

 誰かに幽霊部員として名前貸してもらいます?

 ぼく、既に何人かの筆跡、抑えてますよ」


「なにやってるんだよお前……」


「正直香菜ちゃんと佐須駕野君が居ればそれでいいんだけど。

 せっかくだからやる気満々で面白い人がいいの。

 幽霊部員は士気が下がっちゃう」


「なるほど! 確かに活発な方がきっと楽しいです!」


「ということで私は授業中に部員募集のポスターを作っておきました!」


「ちゃんと授業受けろよ……」


「一ヶ月も学校に来ない人に言われたくないな」


「ぐぬぬ……」


 痛いところを突いてくる。


「私が作ったポスターはこれ!」


 足跡部『生きた証を残す部活』

 私達は同士を後一人募集します!

 自分の生きた証を何か形にしたい人。

 三日後の放課後オーディションを行うので105教室まで来て下さい!


 これに俺達三人のイラストが描かれたポスターだった。


「わー!  瀬川さんイラスト上手ですね」


「有り難う香菜ちゃん! 後香菜ちゃんは夏芽って呼んで」


「分かりました夏芽さん!」


「いちゃついてるところ申し訳ないけど、

 オーディションなんて誰もこないだろ」


「ふふ……それはどうかな」


 なんだその不敵な笑みは……。



 


 そして三日後の放課後


「うそだろ……!?」


 何が起きているんだ。

 こんな怪しい部活のしょうもない一席を求めて、


「30人近くいる……だと!?」


「ぼく達の部活、大人気です!」


「でもなんか、男ばっかりだな。

 こいつらまさか……!?」


「ふふ、察しの通りだよ。

 私と香菜ちゃん、一年生の女の子の人気トップ1、2らしいよ」


「まじかよ……。実態を知らないばかりに」


「むむ、失礼な!

 まあでも、この部活に入ればライバルは噂の変人の佐須駕野君だけ。

 これだけ人が来るのは予想通りだよ」


 お前こそ失礼だよ。

 でもその通りだから何も言えない……。


「それでは皆さん、オーディションを開始します。

 今回進行役を務めさせて頂きます赤姫香菜です。

 どうぞよろしくお願い致します!」


「ふうううううう!」


 会場は大盛り上がり。

 本当にあいつ大人気なんだな……。


「それでは一人目の方、お願いします!」


「はい。僕が今までに懸けてきたことは数学です!」


「円周率行きます!!」


 こうして狂気のオーディションの幕が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る