#109 でっちあげ
オオフラミンゴさんはあの後、メンバー達をひたすら説得した。
過去に自分がPPPの指導に熱中していたこと、その後、このメンバー達と一生懸命練習をしてきたこと。そして、自分が楽しく披露することを忘れていたことを謝罪し、メンバー達もそうなのではないかと問いかけた。
今まで一生懸命やってきたこのメンバーなら、どんなプレッシャーにも耐えながら、楽しく披露することができるのではないか? そう語りかけると、メンバー達は、過去の努力と義務感に追われて練習していたことを思い出し、これからは楽しくやっていこう、今までやってきた自分達なら出来る、と、一致団結した。
それを見たマーゲイさんは、あろうことか鼻血を出しながらテンションを爆発させていた。あれに関しては、私も何も口出しできなかったが…。
さて、オオフラミンゴさん達の件に関してはもう心配無用だが、私の心に余裕ができることはない。
『動かない鳥』として知られるハシビロコウのフレンズに呼ばれていたらしく、アキちゃんと共に博士のログハウスにやってきたが、いつもの通り、ハウス内の雰囲気は重かった。
こちらもいつもの通り、じゃぱりまんを頬張る博士と助手、そしてその2人の前のソファに座っていたのは──
……誰だ?
初めて見るフレンズだ。
赤を基調とした色とりどりな格好をしている。頭にカラフルな羽があるということは、鳥のフレンズのようだ。
とても綺麗な子だが、だいぶ浮かない顔をしている。
「フーカ、やっと来たのです」
「遅いですよ」
博士と助手がそう言うと、そのフレンズは身を乗り出した。
「フーカ!? この子が?」
「なのです」
「いかにもです」
「もしかして…ハシビロコウに呼ばれて来た?」
「うん、そうだけど…?」
「丁度良かった!! フーカなら分かってくれるよね?!」
「…何を?」
「ヒトが、パークを潰しに来るって!!」
「え──っ」
背筋が凍りついた。
『パークはすぐに閉鎖されて、島にいた人も全員、強制的に撤退させられた』
『サンドスター火山からサンドスターが出なくなるようにする方法も、見つかってはいたんだ。あとはそれを実行するだけ』
『1ヶ月後に、サンドスターを消滅させる』
『それと同時に、フレンズも元の動物に戻す』
元ガイドの男性の言葉が、フラッシュバックする。
鼓動が胸を打ち付ける。
呼吸が荒くなる。瞬きもできない。
その様子を見た博士が、首を傾げた。
「…何か、知っているのですか?」
助手も目を細める。
「知っているのなら、言うのです」
答えに迷っていると、先にそのフレンズが口を開いた。
「知ってるも何も、その話を直接聞いてたのがフーカだよ!」
「…え?」
博士と助手が、同時に見開いた。
「どういうことですか、フーカ?」
「何があったのです?」
「あっ、えっ、えっと…」
この2人ならどのフレンズよりも頼れる。本当のことを言っても失望されない。…そう分かっているのに、声が震えて答えられなかった。
「とにかく座るのです。このままでは、気になって昼も眠れません」
「落ち着いてから、よーく話すのです」
ソファに座り、少し時間を置いてから、私は2人にガイドの男性から言われたことを明かした。2人はたまに目を合わせ、不安気な表情を見せたが、特に大きなリアクションを見せることなく、淡々と話を聞いてくれた。
「…なるほど、そんなことが…。」
「だから言ったでしょ!? 私、ヨシアキがフーカと話してる所を、友達と一緒に見てたんだって!」
頷く博士に、そのフレンズは不満を爆発させた。
「悪かったのです、コンゴウインコ。我々の理解力が足りませんでした」
「すまないのです。ジャパリまん3個で許して欲しいのです」
コンゴウインコと呼ばれたそのフレンズは、「3個じゃ少なすぎるよー!」とわめいている。
「では再度聞きますが、コンゴウインコ、お前はその件を報告しに来ただけですか? フーカを呼んだのも、それを証明するためですか?」
博士の質問に、コンゴウインコさんは小さく頷いた。
「うん。フーカを呼んだのは、それを証明してほしかったから。でも、この件を言いに来ただけじゃなくて…、あの話を一緒に聞いてた友達の様子が、最近おかしいんだよね」
「友達…ですか?」
「うん…。」
コンゴウインコさんは、俯きながら話を始めた。
私とガイドの男性が話をしている時、コンゴウインコさんは、友人2人と共にその会話を草陰から聞いていた。
夜遅くまでカフェにいてしまい、カフェから寝床へ戻る最中に、たまたま私達の会話を聞きつけたのだという。
その友人というのが、先ほど話にも出たハシビロコウさん、そしてもう1人は、ケツァールという鳥のフレンズらしい。
私とガイドの話を聞き終えた後、3人は「まずい」と思い、次の日の朝、博士達にこのことを報告しようと約束した。が、翌朝、それぞれの寝床からある場所に集まる約束をしていたはずが、ケツァールさんがいつまで待ってもやって来なかったそうだ。
コンゴウインコさんとハシビロコウさんは、慌ててケツァールさんを探し回った。1日中探し回ったところ、コンゴウインコさんが森の中でやっと見つけ出した。
ケツァールさんは、見慣れない人間の女性と会話をしていたらしい。何があったのかと会話に加わろうとしたが、2人は何やら不穏な会話をしており、人がここにいる事にも違和感を感じたため、コンゴウインコさんは会話には加わらずに、木の上から2人の会話を聞いてみることにしたそうだ。
『つまり、あなたもあの話を聞いていたってことね?』
『ええ、そうです。そこで提案があります、ケツァールさん』
『何かしら』
『あなたは、ヒトに何かしらの恨みを持っていると聞きました』
『…それがどうかしたの?』
『ヒトがパークを潰しに来る前に、私達がそれを阻止するのです』
『阻止する? どうやって?』
『フレンズ達が一生懸命準備をしている、何とかフェスティバル……あれを中止させ、フレンズ達に人間からパークを守るように動いてもらいます』
『フェスティバルを…?』
『はい、それしか方法はありません。ガイドとフーカさんの会話の内容がパーク中に漏れれば、フレンズ達はパニック状態になるでしょう。それに、ヒトを信頼している彼女達は、ヒトの選択に逆らうことなく、パークを易々とヒトに委ねてしまうかもしれない』
『……』
『ヒトを信頼していないあなただからこそ、できることです。パークはフレンズの物だけではない、セルリアンの物でもあります。今だけでも、協力してくれませんか?』
そんなことを話していたらしい。
女性の言う通り、ケツァールさんは動物だった頃の記憶を鮮明に覚えているらしく、その際にあったある出来事から、人間に恨みを持っているそうだ。が、どんな仕打ちを受けたかは、友人であるコンゴウインコさんも知らないらしい。
私がここにやって来て、フェスティバルを企画し始めた際も、誘いは受けたらしいが、人間である私がいたことから、あえて参加を拒否したのだそうだ。コンゴウインコさんとハシビロコウさんはそれが心配で、自分達もフェスティバルへ参加しなかったらしい。
「うーむ…。協力とは言っても、どう協力するのかが分からなければ、対策しようがありませんね」
「それより博士、大事なのは、ケツァールと話していた女性が何者だったのか、ですよ」
「…そうでした。ですが、それはもう間違いなく──」
「セルリアンだよ!!」
コンゴウインコさんが、食ってかかるように声を張り上げた。
「アレはどう見てもセルリアンだったよ! あの雰囲気はヒトじゃない! あれ以来、ケツァールの様子が本当におかしいんだ! 会う約束をしても遅く来たり、何だか落ち着きがなかったりするし…」
「落ち着くのです。賢い我々とフーカにかかれば、この問題はとっとと解決できます。いえ、もう解決したようなもの」
「…え? どうやって…?」
「考えてみるのです。パークのサンドスターを、全て除去する…その手法と理由には確かに納得できます。が、いくらヒトとはいえ、そこまでの技術を持ち合わせているでしょうか? フーカ、どう思いますか?」
「…できなくはないと思うけど、私はまだ子供だし、正直分からない」
「でしょう? もし、フーカと話したヨシアキも、ケツァールと話していたヒトも、全て例のセルリアンだったとしたら? 我々は、そのセルリアンの でっち上げ にまんまとかかってしまう、ということになります。そうなれば、我々はセルリアンの思う壷。それは私としても許せません」
博士の言葉に、コンゴウインコさんはソファに座り、呟くように言った。
「…確かに、フーカと話してたヨシアキも、いつものヨシアキとは雰囲気がかなり違かったかも」
博士と助手は顔を合わせ、頷いた。
「確定ですね」
「ですね」
「やはり、もう解決したも同然です。これからは、賢い我々の思う壷です」
博士は満足げに笑うと、私の顔をびしっと指差した。
「アスカ…ではなくて、フーカ!!」
「は、はい!?」
い、今更になって間違われた…!!
だから私はアスカじゃないんだって!!
「お前に新しい任務を与えるのです」
またか…。
というよりも、お約束というか…。
「な、何でしょうか…?」
苦笑いしながら改まって問いかけた瞬間、ログハウスのドアがゆっくりと開いた。
「…あ、あのー…」
大きな羽を持ったフレンズが、鋭い目付きで私達を見渡した。
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