#108 どりょく
オオフラミンゴさんは、私の話を聞き終えると、目を細めて俯いた。
私は付け加えをするべく、また口を開く。
「確かに、ヒトは賢くて凄い動物かもしれないけど…」
彼女は、顔を上げなかった。
「…私みたいに、生きる価値のないようなヒトもいっぱいいるんだよ」
「そんなことないわ!」
「…え?」
オオフラミンゴさんは、俯いたまま声を張り上げた。
「あなたは凄いわ。みんなに慕われてる。何件のトラブルを解決してきたのかは分からないけれど、準備をしている子達は事あるごとにフーカがいればなぁって…。だから私も、あなたに相談したの」
「いや、その…」
結論が話せそうになくなってきた。
「なのに、何でそんなに暗い話をするの? あなたはアスカとほとんど変わりない存在なのよ? アスカの代わりって訳じゃないけど、私達からしたら、あなたはとっても大切な存在なのよ!」
「ち、違う!」
「違うって──」
「みんなには、私の二の舞になってほしくないんだ!」
引けを取らないオオフラミンゴさんに、私は思い切って結論をぶつけた。
オオフラミンゴさんは我に返ったのか、顔を上げ、私と目を合わせる。
私も、声を落ち着かせて言った。
「だから話したんだ。私は、その……。後悔してる。だから、オオフラミンゴさん達には二の舞になってほしくない」
「二の舞、に…?」
「うん。今まで努力してきたんでしょ? PPPの時も、今のグループの時も。だったらもっと、自信を持たなきゃ」
「………」
「今のあの子達は、まだステージに出る気がある。今の内だよ。このままだと、披露することに義務感を感じて、楽しくなくなる。間違いない」
私は、少し厳しい目付きでオオフラミンゴさんを見つめた。睨みつけたつもりはない。が、彼女は少し怯えた表情を見せた。
「踊ったり歌ったりするのが好きで集まったなら、それを思う存分楽しまなきゃ」
「…でも、どうすれば……」
「PPPを追い越すことを考えるよりも、今まで積み重ねてきたことを思い出した方が良い」
……え、映画のワンシーンのような綺麗事を…。
正直言っている自分が恥ずかしいが、これが本心だ。
あくまで私の経験から、だが。
「努力したんでしょ? 楽しい時もたくさんあったでしょ? それをみんなに話して思い出してもらえば、また頑張ろうって思ってくれるはず。少なくとも私は、努力している子を応援したい」
オオフラミンゴさんは、先程の弱気な表情とは打って変わって、何かを決心しているようだった。
背中を押せたようだ。
「…努力できるのは、すごく素敵なことだよ」
これが、私なりの励ましの言葉だ。
「───!?」
カフェのドアを開けたのは、目付きが異常に鋭いフレンズだった。全身灰色の服に、一部黄色が混じった髪。前髪は顔の中心へ行くにつれて、長く伸びている。その前髪が、そのフレンズの目付きをより鋭くさせていた。
あまりの目付きの鋭さに、一同は一瞬焦ったが、彼女の事はほとんどのフレンズが知っていた。
「…ビックリしたぁー。ハシビロコウかぁー」
「そんなに睨みつけないでくださいよー…」
「に、睨んでるつもりはないんだけど…」
目付きを変えないまま慌てるハシビロコウに、クジャクは気さくに声をかけた。
「いらっしゃいませ。お茶ですか?」
「あ、いや、ここにヒトがいる、って、聞いて来たんだけど…」
「…ヒト、ですか?」
「あぁ、フーカさんなら、さっきオオフラミンゴさんと外に…」
「えっ…その、いつ帰ってくる、かな…?」
「どうだろう…? 多分、その内…」
「何か用があったの? そう言えば、ハシビロコウはあの時ひでり山にいなかったけど」
「フェスティバルのこと、知ってるの?」
「うん、そのことでちょっと…」
「そうよね。ハシビロコウも参加したいわよね!」
「いやっ、そういう訳じゃないんだけど、ちょっと話が…」
「話?」
「伝言なら伝えておきますよ?」
「いやっ、あ、うん…。じゃあ、用事が終わったらハカセのログハウスに来てって、伝えてもらって良いかな…?」
「分かりました」
「その…突然、ごめんね」
「いいえ。またいらしてくださいね」
そわそわとしたままカフェを出ていったハシビロコウを見送ってから、一同は首を傾げた。
「…フーカに何かあるのかしら?」
「いや、さっぱり分からないです…」
部屋内がざわめく中、突然、ドアが勢い良く開いた。
「わっ!?」
「こ、今度は誰──あっ!」
ドアを開けていたのは、オオフラミンゴだった。
その背後には、フーカも立っている。
「おかえりなさい! どこ行ってたんですか?」
一同の視線を集めたまま、オオフラミンゴは声を張り上げた。
「私が間違ってたわ!!」
「…はい?」
椅子の上に立ち、自慢話をしていたマーゲイが、口角を吊り上げたまま椅子に座った。
「…全く、さっきから言っているではありませんか」
じゃぱりまんを飲み込んでから、私は呆れ混じりに言った。
「パークの危機が訪れているのは、とっくに知っています。例のセルリアンの件も、勿論のこと…。ですが、なぜフェスティバルを中止にする必要があるのですか?」
目の前に座っているフレンズは、かなり慌てている様子だった。
「ヒトがパークを潰しに来るんだって! サンドスターを根こそぎ消滅させて、私達も元の動物に戻されちゃうって…」
「…ヒトが…?」
隣にいた助手が、顔をしかめた。
「うん! だから、フェスティバルは後回しにして、まずはヒトからパークを守る準備をした方が──」
「それは、本当なのですか?」
「…っ!」
「本当、なのですか?」
疑いのこもった目で聞くと、そのフレンズは縮こまり、自分より背が低いはずの私を見上げた。
「我々猛禽をなめるなです。嘘をついたら、タダでは済ましませんよ」
「なのです」
「……」
「フェスティバルに出ているフレンズが羨ましいのなら、今からでもどこにでも入れてやるのです。変な真似はよすのです」
しかし、そのフレンズは顔を上げ、声を張り上げた。
「…ち、違う! 本当なんだってば!」
「本当に、本当なのですか?」
私は追い打ちをかける。
「本当だよ!」
「誰からそんな事を?」
「そ、それは…」
鮮やかな羽を揺らしながら、そのフレンズはうつむいた。
「はっきりとした根拠がないのであれば、お前の言う事は信用できないのです」
「博士の言う通りなのです。理由を述べるのです」
フレンズは、すっかり黙り込んでしまった。
「…全く、困ったものなのです」
私が溜息をつくと、助手がまさか、と言ってフレンズを睨みつけた。
「お前、セルリアンではないですよね?」
「ちっ、違う! 私はフレンズだよ! 信じて!」
そのフレンズは、必死に全否定した。
「…本当ですか?」
助手は目を細めると、そのフレンズの頬に手を伸ばし、ぎゅーっとつねった。
「いっ、痛いってば! だから私はセルリアンじゃ…」
「セルリアンではなさそうですね」
「イタタタ…突然つねるなんて、けもの騒がせな…」
「けもの騒がせなのはお前の方なのです。さっさと理由を言うのです」
「うっ…」
フレンズがぎくっと肩を上げた瞬間、ログハウスのドアをノックする音が聞こえた。
「誰ですか?」
助手が応えると、ドアはゆっくりと開いた。
「…フーカ?」
ドアの向こうから顔を覗かせてきたのは、ヒト──フーカだった。
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