しあわせのシンデレラ②

#91  こうろん

「…やっぱり、ヒーロー物をやりたい…?」

 

 その一言と共に、広場には沈黙が訪れた。

 シンデレラの演劇は大成功。ヒトはいなくなってしまったが、新しいメンバーを迎え入れ、何とか演劇を復活させようと意気込んでいた時に、なぜそんな案を出したのか。

 メンバー達は理解できず、言葉に詰まった。

 

「ええ。確かに、ヒトにはシンデレラが受けました。ですが、それでどのくらいのフレンズが良い反応を示すかは分かりません」

 突然案を出した張本人のヘビクイワシは、平然とその訳を話す。

「フレンズしかこの島にいないのならば、ヒーロー物を演技した方が確実に受けるでありましょう。まぁ、フーカという例外はいますが」

 

「…今からヒーロー物に戻すのか? 今までずっとシンデレラをやってきたのに?」

 反論を上げたのは、トキイロコンドルだ。

「ええ。今から練習すれば、絶対に間に合います。私はヒーロー物を推奨するでありましょう。逆に今から練習を始めないと、間に合いません。どうでしょうか、諸君」

 ヘビクイワシに疑問を投げかけられたメンバー達は、ざわついた。「今からだと無理じゃない?」「さすがになー…」と、反対の意見が多いようだった。

 飛び交う意見の中で、キジが手を上げる。

「はいはい! 私はこのままシンデレラをやった方が完成度が高くなると思うよ!」

 続けてディアトリマも手を上げた。

「お姉さんもそう思うな」

「…なぜですか?」

 ヘビクイワシが眉をひそめる。

「ヒトは頭がいいから内容がちゃんと伝わる方がいいかもしれないけど、ヒトがいないなら、なるべく演技し慣れてるやつの方がいいと思うんだ。その方がみんな感動してくれると思う!」

 キジの意見に、トキイロコンドルも同調した。

「私もそう思う。今までやってきた物を磨いた方が、きっと良い演劇が作れるはずだ」

「確かにそうですね…」

 キュウシュウフクロウが頷く。

「でも、確かにヒーロー物の方がフレンズにはウケそうだな」

 オウギワシが手を上げて意見を述べた。

「そうだな…ヒーロー物の方がセリフは簡単だし、何よりもアクションがあった方がフレンズが喜びそうだ」

「私はシンデレラがいいですー! 役割的に!」

「ボクはヒーロー物が良いな」

「私もヒーロー物をやりたいです…」

 フレンズ達が一通り意見を出した後、メンフクロウが口を開いた。

「私の立場からは何とも言えないけど、ここは多数決で決めたらどうだい?」

 しかし、ヘビクイワシが「いえ」と首を横に振る。

「多数決では不平等です。ここは話し合いをするべきでありましょう」

「…そうか、まぁヘビクイワシに任せるよ」

 今日の監督はいつになく厳しいなぁ……と思いつつも、メンフクロウは穏やかに答えた。

 ヒトが去ってからただでさえ暗い場の雰囲気が、更に悪くなる。とっとと話し合いを終わらせたいと思ったフレンズ達は、活発かつ適当過ぎる意見をぶつけ始めた。

 

「やっぱりシンデレラですよー! 私はお姫様をやりたいです!」

「それはライチョウだけの話でしょ!? ヒーロー物だってヒロイン役だから一緒じゃない?」

「お姫様が良いんですよー!」

「いえ、ヒーロー物が良いですよ。台詞も簡単ですし」

「で、でも、シンデレラの方が心に響くと私は思いますよ!」

「いや、ヒーロー物だ! 正義は勝ぁつ! って、ハクトウワシも言ってたぜ!」

「それハクトウワシの考えでしょ!?」

「ボク、ヒーロー物の最後の決めポーズが好きなんだよね。だから、ヒーロー物をやるべきだよ!」

「じゃあ、シンデレラも決めポーズ作れば良いんじゃない?」

「えー? どうやって?」

「めでたしめでたしー。ハーッ!って」

「それはあまり良くない気が…」

「まぁ、私はお面が作れればどちらでも良いんだけどね」

「じゃあ、フーカに決めてもらおうよー!」

「何でもかんでもフーカに任せるのは良くないと思いますよ…」

「だって、このままじゃいつまでも意見がまとまんないよ?」

「カントク、もうヒーロー物で良いだろ?」

「えーっ、ちょっと待ってくださいよ!」

「ヒーロー!!」

「シンデレラ!!」

「ヒーロー!!!」

「シンデレラ!!!」

「ひーーろーー!!!!」

「しーんーでーれーらーー!!!!」

「ひ──」


「落ち着いて!!!」


 口論に水をさしたのは、ディアトリマだ。

 

「…………」

 

「こんな無意味な喧嘩しても意味ないよ。落ち着いて、ちゃんと話そう」


 それを聞いて、メンバー達は反省ぎみにうつむく。

「…ごめん」

 キジがぼそっと謝った。

 

「私はシンデレラをやった方が良いと思う。でも、ヒーロー物をやりたい子だっている訳だしさ…ちゃんと話し合わないと」

 

 ディアトリマがそう言ったものの、話を切り出す者は誰もいなかった。我に返り、やっと責任感を感じたのだろう。

 

 しばらくして、またディアトリマが口を開いた。

 

「…そう言えば……」

 

 フレンズ達が、顔を上げる。

 

「私、見ちゃったんだ…。かなり前、まだヒトがいた頃に、ヘビクイワシとカケルが話してるところ」

 

「…え」

 ヘビクイワシが、眼鏡の奥で見開いた。

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