#63  せんとう

「フーカ! 来てくれたのね!」

 セルリアンと対峙しながら、ハクトウワシさんが私に向かって声をかけた。

「何か案があるのかしら?」

 それに続いて、タカさんが息を切らしながら聞いてくる。

 分からない、と答えようとすると、博士に先を越された。

「フーカが、これを使ってくれるのです」

 博士が私の右手にある銃に目線を向けると、その場にいたフレンズ達もそれにならい、銃を見た。

「えっ?! それって、昔アスカさんが使っていた…」

 名前を思い出せないが、赤い前髪のフレンズが驚いた様子で声を上げた。

「フーカ、それ、使えるの?」

「え、いや、私は…」

「きっと大丈夫なのです」

「なのです」

「…本当かしら?」

「だから、私はこれを使ったことがなくて」

「本当に大丈夫なのです。我々はフーカを信用しています」

 博士は、そう言ってフレンズ達を真っ直ぐ見つめた。

「いくら博士達がフーカを信用していたって、本人が拒否しているなら止めた方が良いんじゃないか?」

 ハヤブサさんの意見に、ハクトウワシさん達も同意する。

「そうよ。どうなの? フーカ」

「あの、私は…」

「私は?」

 また断ろうと思ったが、博士達が割って入ってくるのは目に見えている。

 仕方がない。ここは夢の世界だ。銃を乱射したところで、警察に捕まることはないだろう。素直に博士の指示に従うことにした。

「私は………分かった、使ってみる」

「そう来なくっちゃ、なのです。では早速」

 博士は、フレンズ達にその場を離れるよう指示し、

「セルリアンに向かって、引き金を引くだけなのです。とりあえず使ってみるですよ」

 と、私に声をかけた。

 私は小さく頷き、引き金に手をかける。

 問題ない。相手はただの無機物であって、フレンズでも人間でもない。生物ではない、ただのロボットだと思えば良い。そう自分に言い聞かせるものの、人差し指になかなか力が入らない。

 私の両側では、博士と助手が銃をじっと見つめている。

 不思議だ。人殺しのつもりでもないのに、何かを消滅させることにここまで恐ろしさを感じたのは初めてである。今まで、数え切れない程のものを自力で失くしたはずの自分がだ。

 やっぱり無理だよ、と言おうとした瞬間、セルリアンの中の一匹がぎょろりと私を見つめ、音も立てずに襲いかかってきた。

「…へっ?」

「フーカ! 危ない!」

 後ろで、誰かの声がした。

 すごい勢いで跳躍したそのセルリアンは、猛スピードで私のもとへ飛び込んでくる。

 反射神経が過敏に反応したのか、無意識に右手に力が入った。

 ヒュンッ! という音と共に、銃口から黄色いレーザーのようなものが発射された。それは襲いかかってきたセルリアンの耳のような部分をかすり、瞬間、セルリアンは小さな結晶となった。

 結晶は、跡形もなく消滅してしまった。

「……?」

 息を切らしながら、私は今の現状を把握する。

 レーザー銃…?

 しかし、考えがまとまる前に、こちらを見ていたセルリアン達が一斉に襲いかかってきた。

 私は慌てて、引き金を引く。

 セルリアン一匹一匹がきちんと消滅したことを確認しながら、私は銃を打ち続けた。

 しかし、この数のセルリアンが一気に襲いかかってくるとなると、間に合わない。やはり、フレンズ達の力も必要だ。

 すると、私の体が突然、ふわりと浮かんだ。

「わっ?!」

 思わず、驚きの声を上げる。

 こういう場合は、だいたい後ろを見ると…

 やはりそうだ。博士が、私を抱えて飛んでいた。

「この銃はとても便利ですが、フレンズ達に当たるととんでもないことになるのです。なので、上から射撃しましょう」

「は、はぁ…」

「お前達は、フーカから離れた場所でセルリアンを倒すのです! くれぐれもレーザーに当たらないよう気をつけるですよ!」

 オッケー、了解、という声が同時に上がり、フレンズ達も四方八方に分かれ、セルリアンとの戦闘を再開する。

 博士はそれを見届けてから、私に向き直った。

「良いですか、あと五分で全滅させるです」

「りょ…了解!」

 他のフレンズ達にならって、私も声を張り上げた。

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