#26  さすが

「ウソでしょ…」

「本気で言ってんの…?」

「いや、まさか…」

 

 その場にいるフレンズ達は、イワシャコさんの爆弾発言(?)にざわめき始めた。

 

「え? 何で皆してそんな反応をするんですか? トキさん達は、とても良い歌を歌ってくれてるっすよ?」

 

「そうだよ。だから誘ったのに!」

 

 二人は必死に弁解するが、その気持ちを理解できる者は誰もいない様子だった。

 

「全く…二人の耳がどうかしているのです。とりあえず、後で四人の演奏を聴かせるのです。それで我々が認めてやれば出演しても良いですよ。まぁ、多分ないと思いますが」

「そうですね。多分ありえないのです」

 

 博士と助手に後回しにされ、二人は不満気な顔をしていたが、とりあえず次のフレンズを紹介してもらおう。

 

「次は、ステージではなく広場で出店をしてもらうフレンズ達ですね。その綺麗な羽の彼女がクジャクで、隣の真っ白なフレンズがシロクジャクです。二人はかつてヒトが営んでいたカフェを引き継いで営んでいます。フェスティバルでは、フレンズ達にコーヒーやら紅茶やらを提供したいと言っています」

 

 博士が指差した先には、鮮やかな尾羽が綺麗なフレンズと、そのフレンズを真っ白に染めたようなフレンズの二人が立っていた。


「クジャクです。よろしくお願いし…痛っ!」

 

 クジャクさんが頭を下げた瞬間、背後にいた助手がクジャクさんの尾羽をブチッと抜いた。

 

「油断しましたね。羽、ゲットなのです」

 

「だからジョシュ、もう羽は抜かないでとあれほど…!」

 

 クジャクさんは痛そうに腰をさすっている。それをシロクジャクさんが心配そうに見ていた。いくら口が悪くても、やって良いことと悪いことがある。私は頭に来て、助手を叱ろうと思った。

 

「あの、助手…」

 

「何やってるの?! 駄目じゃない、そんなことしたら!」

 

 しかし、ハクトウワシさんに先を越されてしまった。

 ハクトウワシさんは助手をぎっと睨んでいる。しかし、助手はお構いなしのようだ。

 

「研究に使うのです。良いでしょう、ひとつくらい」

 

「一つって、今日でいったい何回目ですか…?」

 

「…でも助手、羽取ってどうするの?」

 

 私が呆れつつも問いかけると、助手は平然とした表情で答えた。


「それは、秘密なのです」

 

「秘密ってねぇ…」

 

 助手は少しも悪びれていないし、羽を返せと言ってもまたくっつく訳がない。ごめんなさいと謝っても、取り返しのつかないことだから、結局どうにもならないのだ。

 この状況で私が言えたことは、ただ一つだった。

 

「じゃあ、もう抜かない方が良いよ。助手だって自分の羽抜かれるの嫌でしょ?」

 

「もちろん嫌なのです。でもクジャクは別なのです」


「あ、そう…」

 

 これはもう、どう指導しても無理だなと思った。

 ハクトウワシさんは相変わらず「あなたねぇ…」と怒りの表情を見せているが、今は喧嘩などしている場合ではない。

 博士もそう思ったようで、話題を切り替えた。

 

「とりあえず、私が知っているグループの紹介はこれで終わりなのです。残りのフレンズ達は、今紹介したグループのどこかに入るか、自分でやりたいことを言うのです。それでも何もないフレンズは、会場の準備やフェスティバルのピーアールを手伝ってもらうのです」

 

 博士の呼び掛けに、フレンズ達は一斉に動き始めた。

 それを眺めていると、隣からアキちゃんの声が聞こえてきた。

 

「フーカさん、私、みんなと上手くやっていけるでしょうか…?」

 

 あまりに緊張しているようだったので、私は少し笑みを浮かべてから答える。

 

「確かに、みんな個性的だけど、悪い子はいないと思うよ。思いきって話しかけてみるのが大切だと思う」

 

 それを聞いたアキちゃんは、ひきつっていた顔をふっと緩めて、

 

「そうですよね…ありがとうございます!」

 

 と言い、更にこう付け加えた。

 

「さすが、フーカさんです」

 

 瞬間、「さすが」という単語が私の脳裏をぐわんぐわんと回った。そして、たくさんの人間の声がフラッシュバックする。

 

「さすが小田さん!」

「やりますね、さすが天才少女!」

「さっすが楓花! これで優勝間違いなしね!」

 

 人々が、私を期待している。

 私は、その重圧に耐えられなかった。

 

 そして今も、フレンズ達が私を期待している。

 私は、その重圧に…

 

「…フーカさん?」

 

 ふと、アキちゃんの声がして、私は我に返った。

 

「皆さんの移動、終わったみたいですよ?」

 

 見ると、さっきまでばらばらに散らばっていた群衆が、きっちりと列を成していた。

 

「あ、ごめん、ボーッとしてた」

 

 やはり、嫌な記憶ほどリアルに心に残るようだ。

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