#17  すまほ

 木の板が並んだ天井を眺めながら、考える。

 

 こんなに色々な事が立て続けに起きたのに、まだ一日しか経っていなかったということに驚きを隠せない。

 

 アリツカゲラさんと博士は、私とアキちゃんに寝室のベッドを貸してくれた。二人はリビングでもうしばらく話し合ってから、ソファで寝るらしい。

 

 窓から入ってくる涼しい風が、頬をぬらす。

 

 あの後は、ステージ舗装の材料を取りに行こうとしたのだが、その前に日が暮れてしまい、博士のハウスまで帰るには間に合わないと判断し、アリツカゲラさんのハウスに泊めさせてもらうことにしたのだった。


 博士は、暗くても楽勝で飛べるのです、と胸を張っていたが、アキちゃんが大分疲れていたので私が止めに入った。

 

 明日は、一日ステージにつきっきりで終わりそうだ。

 勧誘組の三人は、何人のフレンズを誘えたのだろう?

 まぁ、あの三人組のことだから、そこまで心配はしていない。

 

 一旦フレンズを集めてからステージ舗装を手伝ってもらえば良いのではないかとも思ったが、博士が急いでいる様子なので黙っておいた。

 

 しかし、本当に一ヶ月後にあの会場いっぱいにフレンズが集まれる状況になるのだろうか。

 

 私は、目を閉じてフェスティバルをイメージする。

 

 広場で行うフェスティバルなら、様々な団体が各自でテントを張り、売り出しや活動の紹介をするのがポピュラーなやり方だろう。

 だが、ホートクチホーで店を開いているフレンズがどのくらいいるのかも分からない。

 

 不安だらけだが、今一番信用できる博士を信じて、何とかやっていくしかない。

 

 隣のベッドを見ると、アキちゃんはじゃぱりまんを大事そうに抱えて寝ていた。

 

 彼女の名前も気になるところだが、博士が分からないのでは仕方がない。私も、鳥にはそこまで詳しくないので分からないのだ。名前を挙げるとしても、古典や詞に登場するものしか覚えていない。

 つい去年まで、私は死に物狂いで勉強していた。

 

 だが今は、スマホを夜中に眺め続ける日々で……

 

「…あれ?」

 

 今更ながら、スマホの存在を思い出した。

 今までずっと動きっぱなしで、全く気がつかなかったのだ。

 

 私、スマホどうしたっけ……

 

 まずい。まさか展望台に置いてきた??

 それとも、光の中で落とした?!

 いや、光に飛び込む前にどこかに……

 

 脳がスマホを求め始めている。

 私はたまらなくなって、布団から飛び出し、リビングへのドアを勢いよく開けた。

 

 開けた瞬間、玄関のドアも同時に音を立てて開いた。

 

 同時に開いた二つのドアに挟まれ、博士とアリツカゲラさんは、驚いた様子であっちとこっちを変わりばんこに見た。

 

「ビックリしたのです。何なんですか、二人して……って、ジョシュじゃないですか!」

 

 博士は、玄関からひょっこりと顔を出したフレンズに駆け寄った。

 

「ハカセ…! やっと見つけたのです」

 

 玄関側のフレンズも、目を丸くして博士を見る。

 

 横に並んだ二人は、色が違うだけで姿も口調もそっくりだった。このフレンズも、博士の近縁のフクロウの仲間なのだろうか?

 

「紹介するのです。ハカセの助手のワシミミズクなのです。ジョシュと呼ぶですよ」

 

「ジョシュなのです。よろしくなのです。」

 

 博士がいるなら助手もいる、ということか。

 私は軽く自己紹介し、よろしく、と頭を下げた。

 助手は、私がヒトであることを聞いて、大層驚いたようだ。

 

 …と、それどころではない。今は私のスマホがないのだ。

 

「博士、今から展望台まで行けますか?」

 

「突然何を言い出すのです? 展望台に何かあるのですか?」

 感動の再開ムードをぶち壊す私に、博士は食い気味で答えた。

 

「その前に、ここにヒトがいる理由を話してほしいのです」

 続けて助手が、現状を把握できていない様子で問いかける。

 

「いや、私、本当にあれがないと…」

 そして、私が焦りをあらわにして話す。

 

「とりあえず、明日ではいけないのですか?」

 

「だめです! お願いしますっ!」

 

「ちょ、ちょっと、フーカさん、落ち着いて~…。」

 

「どうしたんですか…? 騒がしいですけど…」

 

 アリツカゲラさんが場を静めようとした瞬間、寝室から寝ぼけたアキちゃんがよたよたと出てきた。

 ハウス内は、一時かなり混乱した状態になった。

 

「落ち着くのです! フーカ、展望台に何があるのですか?」

 

「スマホです、スマートフォン!」

 

「…は?」

 

 初めて聞くらしき単語に、その場のフレンズ達は静止し、一斉に首を傾げた。

 

「とにかく、フェスティバルを企画するのに必要なものなんです。お願いします、連れてってください…!」

 

「必要…? 全く意味が分かりませんが、このままではフーカが落ち着きそうにないので、とりあえず行ってやるのです。ジョシュもついてくるですよ。かなり遠いので、向かっている間にこれまでのことを説明するのです」

 

 そう言いつつも、博士はドアを開け、ハウスの外に出た。

 私は急いで後を追う。

 

 夜風に吹かれながら、私は博士に抱えられて飛び立った。

 厳密に言うと、フェスティバルの運営にスマホが役立つかは分からないが…。

 

 

「…フーカさん、何があったのでしょう?」

「…分かりません…。とりあえず、私は眠いので寝ますね……ふわぁ」

 

 リビングに一人残されたアリツカゲラは、玄関を呆然と見つめていた。

 

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