#15 すてーじ
「ありましたー! ここですー!」
アリツカゲラさんに案内されてたどり着いた場所は、1ヘクタールはある広場だった。
ステージらしき鉄骨の骨組みが立っており、明らかにここがイベント会場だったということを示唆している。
なるほど。ここならステージを一から作らずに済むし、たくさんフレンズがやってきても満員にならないだろう。
「なるほど、ここでしたか。やはり、アリツカゲラならここに最初に連れてくると思ったのです」
「え? 博士、知ってたんですか?」
「もちろんなのです。知らないわけがないのですよ」
「じゃあ、何でアリツカゲラさんに…」
「私が場所をチョイスすると、責任が生まれるのです。スカイインパルスが何かやらかした時に責任を負うのは非常に面倒なのですよ」
おい…。
博士の純粋にズル賢い応答に、心の中で突っ込みを入れる。
それでもアリツカゲラさんは顔色一つ変えずに、
「責任なら私が負うのでご安心ください~。いかがですか、フーカさん?」
と、私に問いかけてきた。
「うん、良いと思います。あの骨組みを皆で協力していじれば、ステージにはなるし……博士も最初っからここにする予定だったんじゃ?」
「いや、それは誰にも分からない、ですよ」
しらばっくれる博士に、また突っ込みを入れたくなる。
この子は、少しでもいじれる時に精一杯いじった方が良さそうだ。と言っても、私にいじれる程のノリはないが。
「……あ、あの…」
ふと、アキちゃんが手を挙げた。
「ん? どうした?」
「ジャパリパークに、フレンズさんってどのくらいいるんですか…?」
アキちゃんは不安気な顔をして尋ねた。
「どのくらい、ですか……そうですね~、数えきれないほど、と言ったら大まか過ぎますよね~…。何と言えば良いのか…」
「そのフレンズさん達が、みんなでここに集まってくるということですよね…?」
「もちろん、そうでないとフェスティバルにはならないですよ」
「どうかしたの?」
「私、変な記憶を思い出したんです…。毎日毎日、たくさんのヒトが目の前に押し寄せてきて、すごく怖かった記憶があって…。だから、フレンズさんがたくさんいる中にいられるか、少し不安なんです」
何と、アキちゃんにそんな記憶があったとは。
しかし、これで彼女が動物だった時の境遇が分かってきた。
足についた日本製の足輪、人だかりが自分の前にできた記憶……
彼女は、動物園で見せ物にされていたのだろう。
これだけ綺麗な模様なのだから、間違いない。
そこから脱走して光をくぐり、ここへやって来てフレンズ化したといったところだろうか。
まぁ、この話は後でするとしよう。
今は目の前にある彼女の不安を解決する必要がある。
「そうだったんですか~…。フレンズ化する前の記憶、私にも少しだけありますよ~。人だかりが苦手とは、どういうことでしょう~?」
「理由は何となく分かったですが、説明は後でしましょう。心配いらないのです。無理をすればサンドスターを無駄に消費するだけ。ストレスを感じたらすぐにその場を離れるのが良いのです。誰もおまえを責めないですよ」
平然とした口調だが温かい博士の励ましに、アキちゃんはふっと口をゆるめ、礼を言った。
「あ、ありがとうございます…!」
サンドスター、というあの物質が、フレンズにとって栄養的なものだということだろうか。
私が口を挟む前に、アキちゃんは安心したようだ。
まぁ、この世界に人の短所を責めるような者はいそうにないが。
「…で、場所は決まりましたけど、これからステージを作ったりとかしますか?」
「え? ステージを作る?」
「あっいや、作るというか、作り直すというか…。ただ、私も工業の経験がないから上手く作れるか分かんないですが」
「こうぎょー…?」
「建物を建てたり、直したりする技術のことなのです」
「あぁ、それなら私も少しだけ得意です~。鳥さん達には得意な方々が多いので、協力していただいたらどうですか~?」
アリツカゲラさんの言葉に、意外性を感じる。
確かに、鳥は藁や枝を使って丁寧に巣を作るが、フレンズ化してもその技術を維持しているということだろうか。
「とりあえず、この骨組みに色々と貼っつければステージにはなりそうなのです。フーカ、手伝ってくれますよね?」
「いや、手伝うというか、博士達の方がそういうの得意なんじゃ…?」
「ハカセはあまり得意ではありませんが、この二人は得意なはずなのです。三日後までに、直せる限り直すですよ」
そう言われても、どこから取りかかれば良いのか分からない。
そもそも、床を作れる木の板や丸太があるのだろうか?
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