#9   にほん

 私は、女の子の足輪に書いてある文字の解読に悩んでいたのだが、フレンズ達は、私が文字を読んだことに大層驚いた様子だった。

 

「えっ? ここになにか書いてあるの?」

「これが文字ってやつなのか?」

「驚いたわ…。やっぱりヒトってすごいのね」

「私には、全く分かりません…。」

 

 フレンズは元々動物なのだから、文字を読める訳がないのか。きっと彼女達にとっては、文字はただの「もの」なのだろう。

 

 かと思いきや、博士だけは違い、

「私はある程度の文字を読むことはできますが、この文字は読めないのです。どう読んだのか、説明してくれませんか?」

 と、興味津々な様子だった。

 

「あ、えっと……多分、博士が読めるのは日本語で、私が今読んだのは英語で…。何て説明すれば良いんだろう、その、ヒトによっても使う言葉が違うというか…。私がさっき言ったジャパンっていうのは、ニホンっていう意味なんですよね」

 

 曖昧な説明になってしまったが、博士は理解したようで、深く頷いた。

「なるほど、英語ですね。分かりました。ニホンというのは、おまえが元々住んでいた場所…でしたよね?」

 

「そう! その通りです」

 

「足輪をつけた鳥のフレンズは、稀に見ることがあるのです。動物の時に、ヒトに取り付けられたという説が一番有力ですが…」


「確かに、足輪をつけた鳥は日本でもたまに見られますね」

 

「やはりそうですか。これで、新しいフレンズの彼女がおまえと同じ場所にいた理由が分かったのです。きっと彼女も、元々ニホンにいた鳥なのでしょう」

 

「…えっ、私がフーカさんと同じ場所に?」

 

 しばらく話について来られていなかった女の子が、ようやく博士の言葉を理解したようで、驚きの声を上げた。


 当の私は、久々に自分の名前を他人に呼ばれて、少し恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な気持ちになる。

 

「そうです。おまえはまだ動物だった時に光の中をくぐり、フーカと同じ経路でニホンからジャパリパークに来たのでしょう。そして体にサンドスターが当たり、フレンズ化したという訳なのです」

 

 ここで、私もあの時の記憶を思い出した。

 確かに、私が光に飛び込む前、鳥のような何かが先に光の中に入っていったのだった。あれがこの子だったということか。何だかロマンチックな話である。

 

「多分、博士の言う通りです……確かに、私が光に飛び込む前に、小鳥が先に光の中に飛んでいきました」


「私が、フーカさんの前に…」

 女の子は自分の記憶を辿っていたようだが、やはり思い出せないのだろう。


「なら、それで確定ですね。そしてもう一つ、アキ…というのは何でしょう?」

 

 ジャパン、アキ…。

 どこかの地名か、施設名だろうか?

 アキ、と一言でいっても、色々な意味があって、解釈しきれない。

 

「分からないですが、多分、この子がいた場所にアキという名前が入っていたんだと思います……私も、鳥に関する知識はあまり無いから分からないけど」

 

 すると、話が理解できずに面倒臭くなったのか、突然、ハクトウワシさんが声を上げた。

 

「じゃあ、この子の名前はアキちゃんね!」

 

 途端に、えぇーっ? という不満の声が一斉に上がった。

 すると、ハクトウワシさんも、えっ? と返す。

 

「ダメかしら? 良いネーミングだと思うのは、私だけ?」

 

「いや、うん…まぁ、良いんじゃないか?」

「そうね、まぁ、良いと思うわ」

「何よ、二人して『まぁ』って……」

 

 結局、この子の仮名は、『アキ』ちゃんになった。

 正直この子にはあまり似合わないように感じる名前なので、早いところ図書館に行きたいが、まずは三人組の頼み事を聞くことを優先した方が良さそうだ。

 

「じゃあフーカ、ジャパリパークについて大体理解してもらえたようだし、私達からの頼み事を聞いてもらえるかしら?」

 

 話が一段落してから、タカさんが頼み事に関する話をふった。

 私は、頼み事は聞くが、得意な分野と苦手な分野があるので、協力できないこともあるかもしれないと前もって告げてから、三人組の言葉に耳を傾けた。

 三人組は、フレンズにも長所と短所があるし、とりあえず話だけでも聞いてほしいと言ってくれた。

 

「頼み事っていうのは、私達が企画しているイベントの準備を手伝ってほしいということなんだ」

 

「えっ?」

 

 ハヤブサさんの一言に、私は案外素朴な頼み事だなと感じた。

 

 こういう時は大抵、パークの危機を救ってくれ! とか、君に世界を変えてほしいんだ! とか、スケールの大きな頼み事をされるのがポピュラーな展開なのではないかと思ったのだが。

 

 三人組はかなり必死にヒトを探していたが、よっぽど大きなイベントなのだろうか?

 

 まぁ良い。所詮私の脳内だ。何を考えているのかは私にも分からないが、もしかしたら超絶しょうもない頼み事なのかもしれない。

 

 私は、これから面倒なことになるかもしれないと、少し覚悟した。

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