第45話 状況は芳しくないそうです
【草むしり後は自由時間】
異世界での生活も慣れてきた3人は、裏庭の草むしりを進めながらも、一日の内、数時間は自由時間にあてるようになっていた。
大家の日向の仕事をするのは勿論だが、昼ご飯を食べ、草むしりを小一時間行うと、午後3時前ぐらいには仕事も切り上げ、色々と勉強や個人個人の時間も作るようにしているのだ。
日向もその辺りは理解しているようで、草むしりばかりさせることもしないのである。というか、今まで庭を草ぼうぼうになるまで放置していたのだから、何とも思っていないのだろうが……。
シャワーを浴びて汗を流した後、各々自由に過ごす。勉強をするもよし、テレビを見るもよし。昼寝でもいい。そこは自由である。
エンデルは部屋着に着替えてエル姫の部屋に向かった。
「エル姫様~何をしていらっしゃいますか~」
「──ハッ‼」
エンデルがエル姫の部屋に入ると、エル姫はあからさまに狼狽する。
「あはははっ、何をしていらっしゃるんですか? あはははっ!」
そんな狼狽えるエル姫を見てエンデルは楽しげに笑う。
「え、エンデル様! 入っていらっしゃるときはノックをしてくださいまし。驚いてしまうではありませんか……」
「はい、すいません。でも素っ裸で何をしていらっしゃるのですか? あははは」
「そ、それは……」
服を脱ぎ捨て、素っ裸で立っているエル姫は、もじもじとしながら顔を赤らめる。
「侍女もいない事ですし、一人でお着替えができるように練習をしていたのです……いつまでもエンデル様のおもちゃ……ではなく、お手を煩わせるわけにはまいりませんので……」
エンデルに毎回着替えを手伝ってもらい、おもちゃにされるのが嫌なのだろう。
「なるほど! それは良い御心掛けですね」
「脱ぐのは簡単なのですが、着るのになぜか手間取ってしまいます」
「はい、慣れていらっしゃいませんからね」
「特にこの『ぶらじゅあ~』という乳当ては装着に手間取ります。機能的には素晴らしいのですが……」
「そうなのですよ、私も初めての時は一人では着けられませんでした」
「そうなのですか……えっ? 一人で着けられなかったのでしたらどうやって着けたのですか?」
「はい。アキオさんに着けて頂きました」
「えええっ! 殿方に着けて頂いたのですか⁉」
「はい、なにかおかしいですか?」
エル姫は男の亜紀雄に乳当てを着けてもらうエンデルを想像して、顔を真っ赤にする。
異性に素肌を見られるだけでも恥ずかしいのに、堂々と胸をさらけ出しブラジャーを着けてもらう神経が分からない。
「いいえ、もう
「いいえ、まだその頃は出会ったばかりでしたよ」
「えええっ! エンデル様は恥ずかしくはないのですか?」
「はい~、アキオさんにも言われましたが、私はその辺りは良く分かりません。全く恥ずかしくはないのですよ。あ、でも最近は少し思うようになりました。今ではアキオさん以外の方には、裸は見られたくはないですね」
「……」
なにか当然のようにのろけ話を聞かされているようで言葉に詰まるエル姫。
エンデルが本当に亜紀雄に好意を抱いているのが見ていて伝わってくるのだ。とても幸せそうな笑顔なのだから。
「そうですか。アキオ様はほんとうに良い方なのですね。というより、見も知らぬ私達にとても良くしてくださりますからね。感謝に堪えません」
「はい! アキオさんはとても優しいのです。だから良い人なのですよ」
何の疑いもなくそう言うエンデルに、最初に出会った方が亜紀雄で本当に良かったと思うエル姫だった。
この世界はどうか分からないが、悪い人間はたくさんいるものだ。表面は優しそうに繕っていても、内面はよからぬことを考えていたり、ただ女性の身体目当ての輩だっているのだ。そんな人に拾われなくて本当に良かったと、しみじみと思うのだった。
「あ、ではアキオさんから教わった乳当ての着け方をお教えいたしますね」
「えっ? そんな着け方があるのですか?」
「はい、一人でも簡単に着けられますよ」
エンデルは亜紀雄に教わったブラの着け方をエル姫に指南するのだった。
「おおっ、これは簡単ですね! これならわたくし一人でもなんとかできそうです──あ、やんっ! な、何をなさるのですかエンデル様!」
「……む~ん、やっぱりいつ見てもイラッと来ますね」
エル姫の胸を見る度に、どこかもやもやとした感情が膨れ上がるエンデル。
知らず知らずの内にエル姫の胸をぺちぺちと叩いているのだった。
「ま、毎回それではないですか~、だから一人でお着替えしなければと思ったのです~」
本音をぶちまけるエル姫。
毎度毎回おもちゃにされる胸。理不尽にいたぶられる自分の胸は何も悪いことはしていないのに。そう思うエル姫だった。
「ところでエンデル様。向こうの世界のプノ様から連絡はありましたか?」
「あ、忘れていました。その事で姫様の所に来たのでした、はい」
衣服も着終わるとエル姫が向こうの世界から連絡がないかどうかを問うてきた。
エンデルはその事で来たことも忘れ、エル姫の胸を甚振っていたのだ。
「えと、これですね、姫様宛の手紙です」
「はい、ありがとうございますエンデル様」
手紙を受け取り手早く封を開く。
さっと書いている内容に目を通し、そこに書かれた内容に溜息する。
「はぁー、どうもうまく進まないようですね……」
向こうの調査に遅々として進展が見られないことに業を煮やすエル姫。
「どういうことですか?」
「ええ、この状況を作り出した犯人を特定しようと思っているのですが、殊の外進展していないようです」
「なるほど、そうなのですね」
「一応、プノ様以外の関係者全員を容疑者としていますが、城の部外者であるプノ様お一人では、その調査も難しいようです……」
「教皇様は信用できるのではないですか? 姫様のお父上でもありますし」
エンデルは教皇が自ら娘であるエル姫をそんな窮地に追いやるようなことはしないだろうと、そう提案する。
「ええ、それはそうなのですが、父が表立って動くと余計犯人は潜ってしまうと思うのです。ですから父には何もしないで静観していて欲しいとだけ伝えております。わたくしが無事であるという事だけで安心していると思います。プノ様の手紙にも泣いて喜んでいたと書いておりました」
「そうなのですね。もう一人ぐらいお味方が欲しい所ですね」
「そうなのです。ただわたくしの侍女に一人大丈夫そうな者がおります。けれども今時点では、容疑者である可能性は否めません」
「そうですか、でも、プノは頭の良い子です、その内何か分かるのではないでしょうか?」
「いいえ、そう簡単な事ではございません。城で自由にできることは限られております。わたくしがいればなんとかできたのでしょうが、犯人が分からない内は誰に頼むわけにもいきません」
「そうですか~難しいですね」
エンデルはそう悩んでいる様子でもなくそう言う。
「エンデル様の方はどうですか? 転移魔法陣関連で何か分かったことはございませんか?」
「はい、今プノーザが一生懸命魔法陣を模写しております。それ待ちでしょうか」
「そうですか、プノ様にも大変苦労を掛けますね……こっちの世界でのほほんとしている場合ではないのですが……」
別にのほほんとしている訳ではないのだが、こちらからは何もできない以上、できるることもないに等しいので、色々なことをして気を紛らわせているだけなのだ。
だがこちらの世界は何かと目新しいモノばかりなので、ついつい楽しんでしまう不謹慎さも無きにしも非ずなのである。
「いいえ、プノーザも結構楽しんでいるようです。前回は『はんば~ぐあ~』という食べ物と、紙やぼーるぺんなる筆記用具を一式一緒に入れて置いたのですが、殊の外喜んでいましたから」
「そうですか、ならば良いのですが……無理をなさって体を壊されても困りますし。それにこの犯人に命を狙われるようなことにならないように祈るばかりです」
「大丈夫ですよ~プノーザはその辺りは心得ていますし、頭の良い子です。上手く切り抜けてくれますよ」
弟子の事を信頼しているのか、それとも楽観しているのか良く分からないエンデル。
しかし、師匠であるエンデルがそう言うのであれば問題ないのだろう。そう思うエル姫だった。
「エンデル様がそう仰るなら、御任せしていても大丈夫なのでしょうね……」
「はい、任せちゃってください!」
無い胸を叩いてそう言うエンデル。なんか頼りない。
そんなこんなで向こうの世界の事情を少しずつ知ってゆくのだった。
◇
一方、ピノーザは、
「うむ、ピノ君! 君はなかなか筋が良いではないか」
「えへへっ、そうかい?」
「ああ、わたしの片腕として申し分ないぞ!」
「えへへっ、褒められちった。でもこの『ねとげ~』って言うのかい? すげえ面白いな! というかこいつらも別の人が操ってるんだろ? どこにこんな広い場所があるんだい?」
「ああこれか、これはコンピューターの中のプログラムというものだよ。実際にある場所ではない。仮想空間なのさ」
「う~む、良く分からないけど、現実世界じゃないってことかな? めちゃくちゃ本物みたいだよね」
「ああ、全部プログラムで作ったものさ」
「魔物なんかすげー強そうだよな。あたしたちのいた世界でもこんな強そうなのいなかったよ」
「あはははっ、この世界にはモンスターなどいないからな、全部空想で作り上げたモノさ」
「すげえな、この世界の人の想像力は……」
などとネトゲのMMORPGに夢中である。
「うむ、明日からは毎日来るが良い。歓迎するぞピノ君」
「あいよ! こっちの世界の師匠はヒナたんさんだな。これからはヒナたん師匠と呼ばせてもらうよ」
「おお、仕方がない弟子にしてやるか。あはははっ!」
ネトゲで師弟関係を構築する二人だった。
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