ロングヘアーの女の子

ロングヘアーの女が信号待ちしていますが、太陽は光り輝いていて虚しい。


「太陽は落ちてきますか?」


ロングヘアーの女は問いましたが、信号は赤のままだ。


男たちが群がってきまして、ロングヘアーの女に話しかける。男たちは一人一人を注視するとどこにでもいるようなありふれた男、それらの群れのようにも思えますが、全体としてみるとそうでもないように思える。というより、全体として見てしまう。男一人一人が集まっているというよりも、一人一人が男たちの臓器の一部、または鼻や口、腕や足などの役割を果たしているようであったのです。いや、というよりも男の群れそのものが大きな一つの臓器のようでありました。その様子はとてもミステリアスで、そいつらは異星から派遣されてきたのではないかと思われるほどでした。ロングヘアーの女はその男たち全員と性行為に及び(1人につき1回毎であった。)、その間に信号は29回ほど赤と青を行ったり来たりしていました。女は決して嫌がっている様子ではありません。だからと言って喜んでいるようでもありませんでした。流しそうめんが泳いでいくように男たち一人一人と順番に性行為を行っていったのです。目の前に女がいるのに、目の前に信号待ちをしていた女がいるのに、その女は渡ってこない。もはや信号待ちをしているかもわからない。次こそはと思っても、女は男たちに絡めとられるように性行為に及び、こっちを見向きもしない。再び空振りする横断歩道。するすると青信号が点滅し始め、そして赤信号へと変わってゆく。信号機はてっきりもうあの女は自分には一切興味がないのではないかと思ったほどでした。誰もいないのと、横断歩道前に人がいるのに渡ってこないのとでは、やはり信号機の心境には大きな違いがありました。動けず、声も発するとこもできずにただ立ち尽くしている自分自身が酷く惨めに思えてきて、倒れてしまいたい、倒れてしまいたい、倒れてしまいたいと、横断歩道がもう何度目かもわからない空振りするたびに考えました。勿論、自分の意思で倒れることもできません。信号機は惨めでした。


そうこうしているうちに、女は最後の1人との性行為を終えました。最後の男がズボンを上げると、男たちはぺちゃくちゃと何か言いながら何事もなかったかのように、まるで消化器官の一部がその役割を終えたかのように立ち去っていきました。その時信号は赤でした。女はパンツとズボンを履き直し、再び信号の方を見ます。真っ直ぐに見ました。青になります。女は足を踏み出します。女は横断歩道を渡りました。

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