北海道

 たかしくんは北海道にいきますよ。


「ああ、北海道にいきますよお。北海道にいきますよお。ほいほいほいほい。」


 そう言って踊るたかしくんを尻目に貴子さんは冷めた表情をしています。


「私はたかしくんを尻目に冷めた表情をしているわ。」


 まあそんなことは関係なく、たかしくんも貴子さんも北海道へ行きます。そういう運命なのです。フェリーでゆくのです。


 ブオオオオン


 フェリーがやってきました。


「フェリフェリフェリフェリフェリフェリ。」


 たかこさんはフェリーに乗っ取られたようです。ヤンなっちゃうわ本当、やんなっちゃうわ。こんな感じで彼らはフェリーに乗っています。


 ぶぉおおおおおおお!!


 フェリーは北海道へ向かいまあす!!


 ぶぉおおおおおおおお!!


 向かいまあす!!海の上を滑るように進んで行きまあす!!


 ぶぉおおおおおおお!!


 ほぇえええええーーーー!!


 おっ、右手のあたりに大きな鯨が出現しましたよこれは。これはこれは鯨さんこんにちは。


 ほぇえええええーーーー!!


「フェリフェリフェリフェリフェリフェリ!!」


 貴子は特に嬉しそう。貴子の前世は鯨だったから嬉しいのかな?そうなのかな?


「ごほっごほっ。」


 咳き込むおじさん。どうやら船長さんのようです。


「あれはね、クジラっていうんだよ。」


「知ってますそんなこと!!私前世が鯨だったのでー!!知ってますー!!」


 ん!!たかこさん、口が爆発したかのように喋り出します。マシンガントークです。たかこ、復活!!


「知ってます!!私前世が鯨だったのでー!!知ってます!!知ってます!!前世が鯨だったのでー!!前世が鯨だったのでー!!」


 うおおおおおおおお!!


「いやいや君。それはおかしい。普通の人は自分の前世なんて覚えていないのだよ。だから自分の前世が鯨だったから鯨を知っているというのは筋違いじゃないかね。それに仮に鯨であったことを覚えていたとしてもね、『鯨』と呼ばれていることは知らないはずだよ。『鯨』というシニフィアンは知らないはずだ。君が鯨を『鯨』と呼ぶことを知っているのは君の前世が鯨だったからではない。君が人間として過ごした期間に身につけたものだよ。」


 船長さんは論理的です。


「船長、流石、論理的だな。」


 たかしくんは感心するのでした。


「フェリフェリフェリフェリフェリフェリ。」


 たかこさんは再びフェリーに乗っ取られたようです。


 完

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