テレビ

 テレビはこちらへ引っ越してきた時に配線の仕方がよくわからずリサイクルショップに売ってしまった。今考えるともったいないことをしたような気もするが別にそうでもないような気もする。区役所の先輩が言っていた。


「明日はテレビが降るかもよ。」


 テレビが降ってくれたらそれはもう願ったり叶ったりというやつだ。一個くらいヒョイっと拾って自分のものにしちまえばいいのだから。しかし降ってきたテレビがそのまま使えるとも思えない。普通に考えると落ちてきた時の衝撃でどこかしら壊れちまってるんじゃないか?それにもし完璧なままでテレビを拾うことができたとしてもまた配線の仕方がわからないかもしれない。そしたらまた売るのか?売るってったってそこらじゅうテレビが溢れてるはずなんだから値段がつくこたあない。うーんうーんと唸っていると、電話が鳴った。


 リンリンリンリンリン、リンリンリンリンリン


 ガチャッ


「もしもし、オレオレ、オレオレ。」


 オレオレ詐欺かあ。このご時世こんな適当な詐欺も珍しいなあ。


「オレオレ、オレオレ。オレオレ、オレオレ。」


「え、どちら様ですか?どちら様?どちら様?」


 試しに聴いてみると、


「オレオレ、オレオレ、どちら様かはお前が決めろ。オレオレ、オレオレ。」


 とこんなことを言うので母とした。


「ああ母さん?なに?」


「母さんだ。母さん癌で死にそうだ。手術をしなきゃいけない。金をくれ。金をくれ。」


 と言うのだがもう既に母さんは死んでいるのだよ。


「おかしいなあ。母さんはもう既に死んでいるのだけれどな。」


 このようにして私は見事に詐欺師の嘘を見抜いてやったのである。


「ま、参りました。ハハ〜。」


 詐欺師の割に素直だな。私は感心してしまった。しかしこの時既に私は詐欺師の罠に嵌ってしまっていたわけなのである。そう、頭の中には亡くなった母のことがもういっぱいに広がっていて涙が堪えられなくなっていたのだ。


「うぅっ!!ううぅっ!!ううううぅっ!!」


 嗚咽が止まらない。


「ふふふふふ。」


 詐欺師の温かい笑い声が聞こえる。


 ドカンドカーンッ!!ドカンドカーンッ!!


 空からはテレビが降ってきた。


 完

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