帰宅

 玄関のドアを開けるとサメが泳いでいた。


 プルンプルンプルンプルン


 プルンプルンプルンプルン


 シャーーーーッ!!


 ひっひぇーーーっ!!おっそろしーっ!!


 あまりにおそろしかったのでドアを閉めた。


 ガガガガガッ!!ガガガガガッ!!


 ドアに食いついている。よかった。咄嗟の判断でドアを閉じてよかった。閉じていなかったら今頃死んでいたかもしれない。


 フーフーフーフー、フーフーフーフー


 息を整える。


 ガガガガガッ!!ガガガガガッ!!


 恐ろしい音。鳴り止む気配はない。ここは気分転換に宙返りでもするべきなのだ。高校時代は体操部に所属していた。弱小なりに熱心に活動していたのだ。いい思い出だ。今でも同期の仲間とは連絡を取り合っている。みんなそれなりにうまくやっているようだ。そんなこんなで今でも、こんな歳になってもまだバック転ができるのだ。スーツ姿で。ふふふふふ。


 せーのっでっ!!


 ぐるんっ!!


 どでーん!!


 いたたたたた、バク転失敗。お尻から着地してしまったのだ。いたたたたた、いたたたたたた。


 ガガガガガッ!!ガガガガガッ!!


 まだ、サメの音が聞こえてくる。ああ、恐ろしい恐ろしい。恐ろしいったらありゃしない。



 そう言えば、妻のさとこと息子のたかしはどうしているのだ。ん、どうしているのだ。いつもなら、家の中にいるはずなのだが。普通に考えるとサメに食われてしまっているな。あんなに好戦的なサメだったのだから。どうやって安否を確かめようか。うーむ。とりあえずたかしの携帯にかけてみようか。ドキドキする。ドキドキ、ドキドキ。


 トゥルルルルルルー


 ガチャッ


 お、出た。


「もしもし。もしもし。あの、元気ですか。お父さんですよ。」


「うがあ!!元気だうがあ!!」


「それはよかった。さようなら。」


 よし、たかしは元気だったか。次はさとこだ。ドキドキ、ドキドキ。


 トゥルルルルー!!トゥルルルルー!!


 ガチャッ


「さとこか?元気かな?」


「元気よ!!うふふーっ!!元気よ!!うふふーっ!!」


 元気だったか。


 ガガガガガッ!!ガガガガガッ!!


 サメも元気。


 完

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